ロシアW杯PRESSBACK NUMBER
イングランド4強、陰の立役者たち。
セットプレーと女性カウンセラー。
text by
粕谷秀樹Hideki Kasuya
photograph byGetty Images
posted2018/07/14 09:00
クロアチアの驚異的な走力に屈したが、若きイングランドにとってロシアW杯は成功だったと言えよう。
必殺セットプレーと心理カウンセリング。
もう1つ、スタッフの尽力も忘れてはならない。
イングランドの主武器であるセットプレーの考案者は、戦略担当コーチであるアラン・ラッセルだ。ペナルティスポットからペナルティアークに向けて3~5人が縦列に構え、ニア、ファー、セカンドボール回収と四方八方に散らばるパターンは、ラッセルがNBAの試合からヒントを得たものと言われている。数年前までのイングランドには、他競技から学ぶ姿勢はなかった。
女性心理カウンセラーのピッパ・グレンジも、選手の信頼を集めている。W杯のような大舞台は緊張の連続で、平常心の維持が難しい。心の乱れがピッチに直結するケースも少なくない。こうしたデリケートな部分を内面からサポートするのが心理カウンセラーだ。
物事の先行きを必要以上に気にして委縮したり、些細なミスを拡大解釈して自己嫌悪に陥ったり、大の男でもビビるものだが、グレンジ医師は選手たちにときに優しく、ときに厳しく接し、選手たちに心の平穏をもたらしているという。
「冷静でいられるのは、ドクター・グレンジのおかげ」と、デル・アリも感謝していた。なるほど今大会の彼は、報復によるイエローカードが1枚もない。まるで軍隊のようだと批判されたカペッロ体制では、女性カウンセラーの登用など議論すらされなかったに違いない。
UEFAネーションズリーグは激戦必至。
前評判を覆す快進撃で意気上がるイングランドだが、9月6日には、UEFAネーションズリーグが開幕する。新設されたこの大会ではスペイン、クロアチアと同じグループに組み込まれた。激戦必至。さらなる強化が必要だ。
ロシアW杯で成功したチームを大幅に変える必要はない。
ケインをはじめ、ラヒーム・スターリング、マーカス・ラッシュフォード、デル・アリ、ジェシー・リンガード、ルーベン・ロフタス・チークなど、タイプの異なるタレントが居並ぶ前線には、アダム・ララーナが復帰する公算が大きい。コンディションさえ整えば、W杯でも貴重な戦力として活躍していた逸材だ。相棒を選ばない柔軟性と、狭いエリアを苦にしないテクニカルなプレーは貴重なアイテムになりうる。