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堀池巧が語る代表デビュー戦秘話
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堀池巧Takumi Horiike
photograph byPHOTO KISHIMOTO
posted2018/05/18 10:00
合宿初日、夕食でのエピソード。
一つ、面白いエピソードがあります。
合宿の初日。午後から全体練習の後、同部屋の西村昭宏さん、手塚聡さんと夕食の前にちょっとお酒を飲もうかとなったんです。僕は普段、飲まないのですが、せっかく先輩たちが勧めてくれているのだからグラスでちょっとだけ、と。そして夕食会場に移動して、終わったらミーティングがありました。新人選手は一番前に座るのですが、お酒のせいでウトウトしてしまったんです。
石井監督は僕に怒るのではなく「新人に飲ませるんじゃない!」と西村さん、手塚さんに怒鳴り声を上げていました。「いくらお酒が弱いと言っても初日から監督の前で寝るヤツなんて」と先輩たちにからかわれましたが、凄く居心地のいい空間でした。大学では勉強もしなくちゃいけないし、食事も毎日学食です。それが代表に行くと、サッカーだけの生活ができるし、栄養あるものを好きなだけ食べていい世界。それに憧れの先輩がいっぱいいるわけですから、幸せでした。
しかし日本代表の責任感というものをここで学んだ気がします。いい環境を与えられる以上、言い訳はできません。ある先輩から、こう言われたことは今も胸に残っています。
「自分たちが好きなスポーツにサッカーを選んだんじゃない。サッカーの神様が、俺たちを選んだ。だから責任を持って、やんなきゃいけない」と。
勝つために必死にやらなければならない。先輩たちの姿勢を見ていて、逃げ道のない勝負の厳しさというものを感じることもできました。
同級生の越後和男が一緒に呼ばれたこともいい刺激になりました。彼は四日市中央工高から古河電工に進み、JSLでも活躍していました。キリンカップ第1戦のアルジェリア選抜戦で先発に起用され、デビューで先を越されたのは悔しかったですね。
初戦の反省を生かした2戦目の守備。
話をデビュー戦に戻しましょう。
雨のブレーメン戦は何もできないまま終わって、ひどく落ち込みました。次の京都・西京極でのパルメイラス戦(5月16日)は、さすがに起用されないだろうと思っていました。そうしたら、石井監督は先発で使ってくれました。今度マンマークする相手は、ミランジーニャ。当時は情報が少ない時代でしたから、僕は名前すら知らない。先輩たちから「すばしっこいから気をつけろ」「スピードがあって、ドリブルも凄い」と情報をもらい、励まされてピッチに立ちました。
90分通して、1対1で負けなかったことは自信になりました。最後、そのミランジーニャにPKを決められて1-2で敗れましたけど、ほとんど仕事をさせなかった。ダメなデビュー戦から、多少なりとも2戦目で盛り返すことができたのは良かったなと思いました。
しかし結果を考えれば、悔しいことに変わりありません。1-1で引き分けていれば、決勝に進めたのです。その決勝は奥寺さんのいるブレーメンとカズ(三浦知良)がいるパルメイラスが対戦し、延長の末にブレーメンが優勝しました。僕は国立競技場でこの試合を見ていました。奥寺さんが肩車されてビクトリーランでトラックを回る姿を見て、決勝の舞台に立ちたかったなと思いましたね。いい内容の試合でも、勝てなかったら意味がない。決勝を見て、強く思いました。