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「ブレイクしている感覚は全然ない」中村敬斗が“実家”で明かしたゴールの秘訣「いったいどこが天然なんだ…」記者が驚いた得点感覚とは?
posted2024/07/18 17:01
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph by
Atsushi Kondo
発売中のNumber1100号[新星のターニングポイント]中村敬斗「『やめたい』と泣いた日」より内容を一部抜粋してお届けします。
質問に対する返答のテンポがあまりにもリズミカルで軽快だから、対話の劣勢を悟って思わずニヤつき、逃げの質問で踊り場を作ろうとしてしまった。
「ところで、頭の回転、速くない?」
実家のソファにゆったりと座る中村敬斗は、「いやいやいや」と照れくさそうに髪をかき上げ、それからしっかりと笑った。
「それは真逆っす。頭のキレはぜんぜんです。全くありません。だって俺、人から見ると天然らしくて。自覚はないんですけどね。海外の人とコミュニケーションを取るのは得意だし、どこに行ってもそういう感じでチームメートと仲良くなっているので、そのままでいいかなって」
自分がブレイクしているという感覚は全然ない
今、サッカー日本代表で“誰よりも点を取りそうな男”は、ピッチの内外で「面白いヤツ」と評判である。
ピッチ内では主に2列目の左サイドにポジションを取る。世界的なトレンドに倣って日本代表においても多士済々の激戦区だが、そこで横一線のレギュラー争いに挑めるほどの確かな能力がある。
何しろ、とにかくよく点を取る。
リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドのような異能がいない普通の世界は、いつでもどこでも得点力不足に悩まされている。流行りの分析指標『xG(ゴール期待値)』を高められる個の存在は極めて貴重だ。だからこそ、中村を見る無数の眼はワクワク感に満ち溢れているのだが、天然の件と同様、本人にそこまでの自覚はない。
「絶対に生き残ってやろうという気持ちはあるけど、自分がブレイクしているという感覚はぜんぜんなくて。日本代表は結果を残し続けなきゃいけない場所。基本的には定着という考え方が通用しないと思うので、そういう意味では自分のゴールが続いたことは嬉しかったですけど……まあ、そうは言っても、ラッキーゴールも多かったですからね」
「代表デビューから6戦6発」は54年ぶりの偉業
A代表デビューとなった'23年3月のウルグアイ戦は、89分に途中出場でピッチに立った。この試合は、ドイツとスペインを破って世界を驚かせたカタールW杯を終え、大きな期待感を持ってリスタートした第2次森保ジャパンの初戦だった。
当時所属していたオーストリア1部LASKリンツでの好調を維持して続く6月シリーズにも招集されると、そこからは破竹の勢いでゴールラッシュを記録した。エルサルバドル戦での代表初得点を皮切りに5試合で6得点。「代表デビューから6戦6発」という54年ぶり2人目の偉業まで成し遂げてしまった。
とりわけ'24年1月のアジアカップ初戦、ベトナム戦の前半アディショナルタイムに決めたカットインからの鮮やかなゴールは、格下相手の苦しい試合展開も手伝って特大のインパクトを残した。
ピッチ中央でパスを受けた南野拓実がしなやかなターンで前を向く。その左前方を走った中村は中央に絞ろうとするマーカーの背中を取って自らのプレースペースを作り、ベストなタイミングを見逃さなかった南野が角度・強度とも絶妙なラストパスを送った。
ふわりと減速した中村のファーストコントロールは右足アウトサイド。これがイメージどおりに収まると、チョンチョンチョンとさらに3タッチ。すべて右足。細かく突いて置きどころの正解を見つけた瞬間に迷わず振り抜き、相手2人の間をすり抜けたボールはゴール右隅に飛び込んだ。