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一流企業の正社員を辞してプロへ。
ラグビー金正奎は生粋の主将だ!
text by
多羅正崇Masataka Tara
photograph byMasataka Tara
posted2018/05/09 11:00
社員からのプロ転向。言葉で書くのは容易いが、行動に移すのは勇気がいる。金正奎はその道を迷うことなく歩んでいる。
全員社員のチームに新たな規約を。
プロ転向の覚悟を聞いたNTTコムラグビー部は、前向きな検討に入った。ひとつ残念なことがあるとすれば、それは金が魅力的な人材であるということだった。
「彼はプレゼンテーション能力が高いんです。私たちとしては出世を目指してほしい人材でした」(NTTコム・内山浩文ゼネラルマネージャー)
NTTコムラグビー部では社員選手で強化を図ることがチーム文化であり、矜恃でもあったが、最終的には金の決意を尊重した。チームはプロ転向に関する規約を新たに作成。本人からの同意、社内各所の承認を得た。
そうして金は、2017年7月1日をもって、プロラグビー選手として新たな一歩を踏み出したのだった。覚悟をもってプロ生活をスタートさせた金だったが、ときおりプライドを揺さぶられることもある。
「焼肉屋はラグビーより甘くない」
金の実家は大阪府内で7店舗を展開する焼肉チェーン『明月館』を経営している。そのことを知る友人などから、他意なく「プロで駄目になったら焼肉屋がある」といったニュアンスの言葉をかけられることがある。しかし、本人に実家に戻るつもりはない。
「僕は僕の道でやっていきたい。たまにプロになったひとつの要因として『焼肉屋があるから』と言われるんですけど、そこはまったく考えていません。そんなに甘い気持ちでプロになったわけではないですし」
4人兄弟の末っ子である金は、家族のために火の玉のように働き、祖父から継いだ店を府内7店舗にまで拡大した父の背中を見てきた。仕事に猛進する父は家を空けることも多かった。幼い頃は9歳上の長兄・正成さんが父親代わりだった。
「焼肉屋の世界はそれこそラグビーより甘くないと思っています。僕がふらっと行って働けるような環境ではありません」
見据えているのは己の道だ。スポーツを通し、多くの人に良い影響を与えたい。
「自分のプレーを通して、いろんな人に良い影響を与え続けたいという気持ちが強いです。僕のプレーを見て勇気を持ってもらえたら嬉しいですし、ラグビーを好きになってもらえたならなお嬉しいです」