“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
3度の前十字靭帯断裂負った選手の物語。
札幌・深井一希の驚くべき「不屈の魂」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/04/30 09:00
今季ここまでは好調の深井一希。フルシーズンを怪我なく走り抜けることが目標となる。
「足をついた瞬間に『ゴリ』っという音を」
「3度目の苦難」が彼を襲ったのは昨年4月2日のことだった。
J1リーグ第5節のアウェー・ヴァンフォーレ甲府戦の14分、相手のボールに寄せていった際の着地で、彼の耳に聞いたことのある音が響いた。
「足をついた瞬間に『ゴリッ』という音を聞いたんです。まさかと思ったけど、その時は痛む箇所が過去の2回と少し違ったので、『(前十字靭帯断裂と)違うはず』と自分に言い聞かせていた」
担架で外に運び出されてそのまま交代すると、試合後、宿泊先の東京に向かうバスで彼は現実と向き合うこととなった。
「バスの中でどんどん痛みが激しくなって、ホテルについた頃にはこれまでの2回と同じ痛みと感覚になった。そこで『あ、3回目をやってしまったな』と……」
翌日、札幌に戻って診断を受けると、予想通りの左膝前十字靭帯断裂と半月板損傷の大怪我だった。
「1回目と2回目が立て続け(プロ1年目の2013年11月に左膝前十字靭帯断裂を負い、復帰から1カ月後の2014年8月に逆足の右膝前十字靭帯断裂と半月板損傷を負った)にあったことで、2回目の後は相当落ち込んだし、『僕はもうダメなのかな』とまで思った。でも、周りの人たちの支えもあって『なんとか復帰したい』と思えた。
この3回目を迎えるまではコンディションも良くて、筋トレの成果もしっかりと出て、2016年シーズンはそれなりにプレーを続け、J1昇格を経験することもできた。昨シーズンも開幕から甲府戦までずっとスタメン出場していた。だからこそ、『もう一度頑張り直せばいいんだ』とポジティブに捉えられたんです」
大きな怪我を3回やったら選手生命を断たれる!?
当然、周りからは多くのネガティブな声が届いてきた。
「やっぱり『大きな怪我を3回やったら選手生命を断たれる』というイメージがあるんでしょうね。親しい人たちからそういう声は聞こえなかったのですが、友人は知り合いから『お前の友達、もうやばいんじゃない』とか言われたそうです。でもそういう声を聞いて、やっぱり見返したいというか、『そう思われた通りになりたくない、絶対に復活してやる』って……反骨精神に変わりましたね」
深井を一番奮い立たせたのは、身近な人たちの繊細な気遣いだったという。
「1回目のときは家族からすぐに連絡が来て、『大丈夫?』と言われたけど、3回目はすぐに連絡が来なかった。友達も連絡が遅かった。たぶん、自分以上に周りが苦しい想いをしているんだなと、改めて気づいたんです。
僕はもうすぐに気持ちを切り替えられていたのですが、みんな僕に対してどうアクションをしていいか分からない様子でした。それが一番申し訳なかったし、辛かった」