“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
3度の前十字靭帯断裂負った選手の物語。
札幌・深井一希の驚くべき「不屈の魂」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/04/30 09:00
今季ここまでは好調の深井一希。フルシーズンを怪我なく走り抜けることが目標となる。
「お前、サッカーを絶対に辞めるなよ」
そんな中でも、特に2人の人物の言葉が深井の心に深く突き刺さった。
2011年のメキシコU-17W杯でベスト8に勝ち上がったときのチームメイトであり、友人でもあった早川史哉(新潟)から「お互いに頑張ろう、一歩ずつ這い上がろう」というエールをもらったのだ。2016年に急性白血病と診断され、闘病中だった友人の言葉――。
「史哉なんかは僕よりもっと苦しい経験しているし、弱音なんて吐いていられない。それに『なぜ自分だけなんだ』と思いたくなかったし。
史哉も僕も1人ひとり『与えられた使命』というか、『乗り越えなきゃいけない課題』がそれぞれにある。それに立ち向かっていかないといけないと、その言葉でより強く思えたんです」
そして、3度目の手術の直前に、当時トップチームの監督を務め、U-18でも3年間指導を仰いだ四方田修平(現トップチーム・ヘッドコーチ)から一本の電話が入った。
「一希! お前、サッカーを絶対に辞めるなよ」
四方田のこの一言で、深井は勇気を奮い起こしたのだという。
「これから先、何があっても絶対に屈しない」と。
リハビリまでの期間を欧州見学に当てた。
3度目の手術を終えた直後、「リハビリ開始まで1カ月空くことになったので、新たな刺激を得るために」と、チームと担当医師の許可を得て、彼は単身でヨーロッパに渡った。
最初にスペインに行くと彼の大好きなFCバルセロナの試合を2試合観戦し、目標としているブスケッツのプレーを観察し続けた。
「カンプノウでバルセロナvs.ビジャレアル、エスパニョールのホームでエスパニョールvs.バルセロナを観戦しました。
ブスケッツが大好きで、実際に生で見てやっぱりテレビで見ているよりも攻守に影響力がすごいなと感じました。『ブスケッツは何人いるんだ?』と思うくらい幅広くボールにかかわり続けていたし、なかでも一番驚いたのはメンタル。
例えばボールを受けてターンをしてかっさらわれるシーンがあったのですが、次同じ状況がきたときに、ボールを下げたりせずにまたターンをしたんです。
普通の人は1回失敗したら悪いイメージが残っているので、安全なプレーを選んでしまうけど、また同じところでターンしようとする勇気が凄かった。
あと、シャビ・シモンズ(14歳)はずっと見たいと思っていて、カデーテB(U-15)の試合を観に行ったんです。彼は……ずば抜けてうまかった。僕と同じボランチで、背も小さくて、スピードはそこまでないけど、頭で考えていることの次元が全然違ったんです。
イニエスタっぽい緩急でスルスル抜くこともあれば、シャビみたいな鮮やかなターンでかわすなど、あの天才2人が混ざった選手だと思いました。
自分の昔と照らし合わせながら、『ここまで考えながらできていなかったな』と思ったし、『今でもこんなに簡単にできないな』と思うと、もう1回サッカーやりたい気持ちになった」