“ユース教授”のサッカージャーナルBACK NUMBER
3度の前十字靭帯断裂負った選手の物語。
札幌・深井一希の驚くべき「不屈の魂」。
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph byTakahito Ando
posted2018/04/30 09:00
今季ここまでは好調の深井一希。フルシーズンを怪我なく走り抜けることが目標となる。
「『自分に合った道』で最大限頑張る」
この浦和戦では前半45分のみのプレーとなったが、鍛え上げられた屈強なフィジカルと高いボール奪取力と危機管理能力を駆使して浦和の攻撃の芽を摘み取り、前半を失点ゼロに抑えこんだ。
試合は0-0のスコアレスドロー。続く第10節の横浜Fマリノス戦でもスタメン出場すると、今度は79分までプレー。2-1の勝利に貢献した。
「2、3年前は『僕も海外に』という気持ちが先走っていたけど、今はちょっと考え方が変わったんです。
1人ひとり与えられた道がある、と。『誰かが』じゃなくて、『自分に合った道』で最大限頑張って、上を目指したい。それにこの年齢(23歳)でこれだけの怪我をした選手はそういないですから。もっと活躍して、『(前十字靭帯断裂を)3回やっている人でもここまでできるんだ』という指標になりたいですね」
「怪我さえなければ」の声は聞こえなくなった。
逞しくなった彼に敢えて少し厳しい質問を投げかけてみた。
「心のどこかで『4回目をやってしまったらどうしよう』とは思わないのですか?」と。
「4回目に対する恐怖が完全にないわけではありませんが、そうなったらそうなったらでまたリハビリをして復帰に向けて努力を重ねれば良い、と。
もちろんそうならないようにがっちりとテーピングをする、身体のケアをするなど最大限の準備はします。でも、無理をしないと失点に繋がるシーンだとしたら、身体を投げ打ってでも止めに行ってしまうと思います。それで……もし怪我をしてしまっても、もう受け入れるしかありませんからね(笑)」
チームの勝利のために身体を張る。それを続けるために、最大限の準備をする日々を過ごす。「自分の道」を着実に一歩ずつ踏みしめる毎日に、「あの選手、怪我さえなければ良かったのにね」という雑音は入ってこなくなった。
今、彼が見ている景色は幸せに満ちている。サッカーができている。いつまでも新鮮なその喜びが常に心にある限り……深井一希はその名の通り「一筋の希望」となって上を目指し続ける。