スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「神の子」トーレスと2度目の別れ。
A・マドリーとの蜜月が幕を閉じる。
posted2018/04/26 08:00
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph by
Getty Images
4月9日、フェルナンド・トーレスが今季限りでアトレティコ・マドリーを退団する意向を明かした。
「昨季と比べ、今季はプレー時間が大幅に減っている。いくらこのクラブで引退したくても、2シーズンもプレーせずベンチに座り続けるつもりはない」
理由は出場機会の減少だった。
その時点での今季の総プレー時間は、全体の30%に満たない1279分。先発出場は10試合のみにとどまっていた。
これは全公式戦45試合のうち21試合で先発、2197分間プレーして10ゴールを挙げた昨季と比べても、明らかに物足りない数字である。
ビッグゲームでベンチを温め続けたことも、彼の決断を早めた一因だ。
実質的に逆転優勝の望みが潰えたリーグ第27節のバルセロナ戦では、1点を追う展開ながら出番は訪れず、0-1の敗戦をベンチから見守ることしかできなかった。
退団発表の前日、1-1で引き分けたレアル・マドリーとのダービーでも、ベンチにいた背番号9に声がかかることはなかった。
「トーレスの残留に手を尽くすか?」
それでも今後の活躍次第で状況が好転する可能性があれば、トーレスは来季もロヒブランコ(赤白)のシャツを着てポジション争いに臨んでいたはずだ。彼はアトレティコで引退することを望んでいたし、クラブも本人が望む限り契約を延長していく意向を伝えていたのだから。
しかし、シメオネは違った。
2月21日の会見にて、指揮官は「トーレスをもう1年残留させるために手を尽くすか?」との質問に対し、一言「ノー」と答えた。
「グリエスマンの残留には手を尽くしているようだが……」という前置きを伴ったこの質問について、シメオネは直後に受けたテレビのインタビューで「あれは議論を起こそうとした質問だ」と嫌悪感を示したうえで、こう付け加えている。
「自分の考えに基づいてノーと答えた。私はチームのことを考えているからね」