スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
「神の子」トーレスと2度目の別れ。
A・マドリーとの蜜月が幕を閉じる。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2018/04/26 08:00
リバプールを出て以降苦しいキャリアが続くフェルナンド・トーレスだが、それでも2015-16シーズンには二ケタ得点を決めて見せた。
EUROもW杯もCLもELも獲ったが。
最終的にトーレスは、安住の地でスパイクを脱ぐことよりも、プロとしてプレーし続ける道を選んだ。本人がそう決めた以上、周囲はその決断を受け入れる他ない。
シーズン終了まであと1カ月。リーグ優勝の可能性はほぼ潰えたが、アーセナルとの準決勝を控えるヨーロッパリーグでは、6年ぶりのタイトル獲得への期待が高まっている。
トーレスはEUROとワールドカップ、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグの決勝でピッチに立ち、タイトルを獲得した世界で唯一の選手である。
しかし、意外なことにアトレティコではまだ1つのタイトルも手にしたことがない。ゆえにこのラストシーズンを初タイトルと共に締めくくることができれば言うことはないが、たとえ無冠のまま終わることになっても、彼の功績が色褪せることはないだろう。
「素敵な物語には始まりと終わりがある」
11歳からアトレティコのアカデミーで育ち、チームが2部に沈んでいたシーズンに彗星のごとくデビューを飾り、翌年には主力として1部復帰に貢献した。その後19歳にしてキャプテンを任され、低迷するチームの中で毎シーズン二桁得点を重ね、ファンに希望を与える存在であり続けた。
かつて「エル・ニーニョ」と讃えられた神童も34歳。すっかり男らしくなった「神の子」は、愛するクラブに2度目の別れを告げる際、こんなメッセージを発している。
「素敵な物語には始まりと終わりがある。僕がデビューした日に始まったこの物語も、終わりを迎えるまであと1カ月と少し。それまでの間を楽しみ、ファンとチームが1つになることの大切さを噛み締めよう」