ファイターズ広報、記す。BACK NUMBER
ファイターズの「母」に贈った引退式。
プロ野球を支える偉大なる女性たち。
text by
高山通史Michifumi Takayama
photograph bySponichi
posted2018/04/15 07:00
3月31日、西武戦の5回終了後の整備を終えた後、サプライズで栗山監督から花束を渡されたグラウンドキーパーの工藤悦子さん。
監督の運転手という立ち居振る舞い。
もう1人の「母」を紹介する。ファイターズが現職に、任務をお願いしたのは2003年。トレイ・ヒルマン元監督が就任した年である。札幌ドームへと本拠地を移す前年、東京ドームのラストイヤーである。歴代、監督が乗車するタクシーの運転を託しているのが女性のベテラン運転手Yさんである。
就任7年目の栗山監督が、関東近郊で移動する際は、いつもドライバーを務めてもいただいている。
過日のこと。広報業務で栗山監督と同行する機会があり、初めて人柄に触れた。
担当記者時代から、Yさんをお見かけし、存在を知ってはいたが、言葉を交わすことはなかった。車内での立ち居振る舞いは、まさしくプロである。多弁な運転手の方々とよく知り合うが、Yさんは車内では黙して語らず。栗山監督と、小職が話しかけた時だけしか言葉を発しないのだ。
「どうぞ、監督と一緒に飲んでください」
信頼をされ、長きにわたってお願いをしている理由を、少しだけ垣間見た。
Yさんと2人で、栗山監督を迎えに行く時である。コンビニエンスストアの前で突如、路上駐車。
「ちょっと待っていてくださいね」
一言残して店内へ姿を消すと、戻ってきた。両手には、ホットコーヒーと複数のスポーツ紙。「どうぞ、監督と一緒に飲んでください」と1杯プレゼントされた。その数分後。ピックアップして車内に乗り込んだ栗山監督へ、こよなく愛するホットコーヒーを、おもむろに供した。
両手で受け取ると「ありがとうございます」と一言だけお礼を伝え、おいしそうに口へと運んだ。Yさんは、またそこから無言。栗山監督とYさん。長い年月とキャリアを感じる、あうんの呼吸を体感したのである。
帰りの車中。栗山監督が降車すると、Yさんと小職の2人の時間。いろいろと会話する機会が生まれたのである。重かった口を開いてもらえると、かわいらしいエピソード満載である。