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ボールボーイ事件、頷く大杉漣さん。
馬渡和彰、徳島での後悔を胸にJ1へ。
text by
石倉利英Toshihide Ishikura
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2018/03/02 08:00
時が経てば、躓いた過去も未来へのステップとなる。馬渡のような選手こそ、サポーターは応援するのだ。
事件後もロドリゲス監督は信頼した。
2017年4月29日のJ2第10節・千葉戦の前半14分。馬渡がロングパスに合わせて左サイドを駆け上がると、飛び出してきた千葉GK佐藤優也がボールをタッチラインに蹴り出した。ゴールマウスは無人、すぐにスローインすればチャンスが広がる――。
だが気持ちがはやるあまり、ボールを渡すのが遅くなったボールパーソンの中学生に詰め寄って小突いてしまい、主審から一発退場を命じられた。
「ボールボーイへの暴行で退場」
ネットニュースをはじめとする各媒体で大きく取り上げられ、該当シーンを捉えた中継動画も拡散した。馬渡はJリーグから2試合の出場停止処分を受け、クラブからも独自に1週間(5月5日まで)の謹慎・練習参加停止などを科されたが、クラブ事務所には抗議の電話が相次いだ。職員が深夜まで対応に追われ、メインスポンサーである大塚製薬の公式HPもサーバーがダウンしたという。
謹慎中に事態を伝え聞いた馬渡は、「練習に復帰しても、チームメイトから『お前、ふざけんなよ』とか言われると思っていた」と振り返る。だが練習に復帰すると、チームメイトの態度は以前と何ら変わらず、リカルド・ロドリゲス監督も出場停止明けの第13節から、すぐに先発で起用した。
大杉漣さんと「目が合ったとき……」。
ホームゲームだったその試合では、熱心な徳島サポーターとして知られ、先日亡くなった俳優の大杉漣さんが、試合前に花束贈呈を行った。「目が合ったとき、うん、とうなずいてくれました。たくさんの意味が込められていたと思います。あのとき感じたことは忘れられない」。試合が始まると、覚悟していたファン・サポーターからの大ブーイングもなく、むしろ温かい励ましの声が聞こえてきた。
「いろいろな人に支えられていることを、あらためて実感しました。サッカーで迷惑をかけたのだから、サッカーで返すしかない。声を出して、最後まで走って、アシストや得点で勝利に貢献しなければいけない。心からそう思いました。それができれば、『あんなことをしたけれど、良い選手だね』と感じてもらえるのでは、という思いもありました」