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星野仙一、落合博満、アライバ。
荒木雅博と中日と2000安打の軌跡。 

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鈴木忠平(Number編集部)

鈴木忠平(Number編集部)Tadahira Suzuki

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2018/03/04 17:00

星野仙一、落合博満、アライバ。荒木雅博と中日と2000安打の軌跡。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

自信家が多いプロ野球界において、荒木のような存在は異質かつ、人々の心を打つ。

「あいつじゃなければ、名古屋港に」

 もうクジは引かせられない……。スカウト陣が悩んだ末に選んだのは「足と守りはいいが、棒はからっきし」という評価だった荒木の繰り上げ指名だった。

「荒木には本当に悪いことをした。1位、1位って期待されてね……。あいつじゃなければ、名古屋港に飛び込んでいるよ」

 スカウト部長・中田宗男は今だから笑って懺悔できるが、当時は本気でそんな心配をした。大げさではなく打球が外野に飛ばなかった。鳥かごのような打撃ケージから出ないことさえあった。プロ5年目までヒットは15本。これまで2000本を打った50人の中で5年目までに100安打を超えなかったのは荒木ただ1人である。

落合を悩ませ、信頼させた“過小評価”。

 転機があるとすれば、その特殊な能力に気づいてくれる人と出会ったことだろう。

 落合博満。

 かつての三冠王は1つの走塁、1つの守備を1本のヒットと同等に考える人だった。だから、わずか数秒の隙で次の塁を奪える、他の選手が届かない打球を止めてしまえる荒木の足が持つ価値をわかった。

 落合はいつも練習を少し離れたところから俯瞰する。そこから見える選手の動きを「一枚の絵」にする。動く人を静止画にしてしまう。そうすることで日々、動きのズレや変化を見抜くのだ。どんな名選手でも必ずブレるという。つまり景色が変わる。

 ただ、その中でただ1つ、いつも同じように見えるものがあった。荒木の足だった。それは落合にしか見えなかったものかもしれない。それゆえの信頼だった。

 落合が指揮した8年、たっぷりと打席を与えられた荒木は1217本のヒットを打ち、6度のゴールデン・グラブ賞、4度の優勝という栄誉に浴した。

 ただ、落合には誤算があった。

「自分を過大評価するやつが多いこの世界で、自分を過小評価する珍しいやつ。だからあいつの扱いが一番、難しいんだ」

【次ページ】 「このままブレーキを踏まなかったら」

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