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小平奈緒がオランダ修行で得たもの。
「競技者としては、もっと……」
text by
藤田孝夫Takao Fujita
photograph byTakao Fujita
posted2018/02/24 08:00
柔らかな笑顔を見せる小平。単身で乗り込んだオランダの地で、その潜在能力は爆発した。
オランダ語の暗記ノートを作って。
“群れ”を嫌うタイプの選手かな? という印象は以前からあった。
だから4月に『小平、オランダへ単身武者修行』の報を聞いたときも、『なるほど、ここまできたか』という感じだった。むしろ驚いたのは、この時代に、日本のスピードスケート界にこのような前例が一度も無かったことだった。それだけに、あらゆることに難しさはあったはずだ。とかく日本人は前例無き事に弱い。ましてや渡欧時、小平は27歳。無邪気になんでも吸収するには、努力が必要な年頃になっていた。
「確かにコミュニケーションは大変で、例えばコーチがミーティングで全員にオランダ語で伝えた後、『ナオとカロリナ(もう1人の外国人であるチェコ人選手)には後で英語で説明するから』って。でもその英語も最後の結論しか分からなくて。それがもどかしくて、今は独学でオランダ語を勉強してます。カロリナは専門にオランダ語を教わっているみたいですけど、私は教材費ゼロで(笑)」
取材の合間、彼女自ら作成したオランダ語の暗記ノートを見せてもらった。字は性格を表すのだとしたら、確かに彼女の文字は丁寧で美しかった。今では日常生活でも、基本的にはオランダ語でやりとりしている。
「ナオは立派なファミリーよ」
コーチのマリアンヌは長野五輪の時と変わらず、相変わらずの美人である。体型も現役時代とほとんど変わらず、選手に混じって練習しても全く違和感がない。彼女に小平の印象について聞いてみた。
「ナオはすばらしい。確かに最初は英語も喋れなくて大変みたいだったけど、今はオランダ語も少し喋るようになった。チームメートもナオの努力は知っている。彼女は自分が何をやるべきかちゃんと分かっているし、私は何も心配していない。立派なファミリーよ」
小平がスケートに向き合う真摯な姿勢やオランダに馴染もうとする努力は、既にチームメートの誰もが認めるところだった。だがコミュニケーションの問題は、ある程度想定内だったはずだ。むしろ彼女は当初、別の事で心配していたという。
「春先の練習があまりにスロースタートで、こんなんでいいのかな? って思ってました。それが6月に氷に乗ったあたりから徐々によくなって、夏くらいからはいい練習が出来ている実感があります」
確かに言葉の不安に比べれば、練習内容の不安の方が大きかったはずだ。せっかく自分より強い同性の練習相手がいるのに……。しばらくすると分かる事だが、どうやらそのやり方がオランダ流らしい。