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坪井慶介は燃え尽き方を知らない。
湘南から山口、38歳は今日も走る。
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2018/01/07 11:30
身体能力を武器にする選手にとって、年齢は最大の敵である。しかし坪井慶介は、自らの成長を確信しているのだ。
湘南での生活を振り返り「軽い練習で終わりたくない」。
2017年11月下旬、すでにJ2のシーズンが終了し、湘南の練習場にはリラックスした雰囲気が漂っていた。早々にチーム練習を終えた選手たちが笑顔を見せながらボールを蹴っている中、グラウンドの脇でストップウォッチを持ったフィジカルトレーナーの掛け声とともに、きびきびと動く坪井の姿があった。
すでに契約満了が発表されていたものの、湘南の練習着で懸命にトレーニングを続けていた。歯を食いしばり、太ももを上げる。機敏に障害物を飛び越え、ダッシュを繰り返す。大粒の汗を拭いながら、厳しいサーキットトレーニングに取り組んでいた。
トライアウトに向けた準備で体を動かす藤田祥史に付き合っていただけではない。坪井はそこに出る意思はなく、湘南で過ごす残りわずかな日々を堪能するかのように自らの体をいじめていた。
「湘南では3年間、ずっと厳しい練習を積んできた。それを最後まで続けたかった。そのほうが湘南らしい終わり方でしょ(笑)。軽い練習で終わりたくない」
1人で行うルーティンも欠かさない。逆立ちしながら進み、ほふく前進のような姿勢で地面をはう。独自で考えたメニューまで消化し、グラウンドを引き揚げると、駆け付けたファンへのサインに笑顔で応じていた。
「自分の体と相談しながら、考えてメニューを組んでいる。年なんで、ケガしない程度にやっている」と笑う。
井原正巳の背中から、プロの姿勢を学んだ。
昔に比べると「練習量は減らした」と言うものの、自らを追い込む姿は、練習熱心な湘南の若手たちにもいい影響を与えた。かつて坪井が先輩を見て育ったように――。
浦和でプロデビューして間もない頃、ストイックな井原正巳(現アビスパ福岡監督)の背中からプロの姿勢を学んだ。練習への取り組みだけではない。井原は負けた試合の後でも取材ゾーンで必ず足を止め、記者のどんな質問にも悔しさを噛み殺して、答えていたという。
「“試合に負けたときこそ、プロとして質問に答える義務がある”と教えられた。実際に井原さんはそうしていたから」
坪井はたとえ自分のミスで負けても、チームが惨敗しても、決して報道陣の前を素通りすることはない。それも「プロの仕事だから」という。