スポーツ百珍BACK NUMBER
吉田麻也を正当に評価してもらう。
戸田和幸「日本人CBで総合力No.1」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byTakuya Sugiyama
posted2017/09/18 09:00
表情もザッケローニ体制時以上に風格が出てきた吉田。イングランドで揉まれた経験値は伊達ではない。
本人も「難しいことをしすぎない」と。
――今年に入ってから、吉田選手のサウサンプトンでのプレーパフォーマンスが急激に上がってきた印象を受けます。戸田さんの目にはどう映っていましたか?
「身体的なビルドアップ含め、コンスタントに試合に出られなかった時期に地道に積み上げてきた努力が、前主将のフォンテが移籍したタイミングで訪れたチャンスを掴みにいった時に、一気に花開きはじめたというところでしょうか。
何よりもリーグ戦にコンスタントに出場できるようになって「自分は出来る」というそれまで内に秘めていた思いを、しっかりとピッチの上で証明した事で得られた大きな自信と評価が彼を変えたのだと思います。
昨シーズンの序盤戦は基本カップ戦要員でした。その中で冬にチャンスを掴むことに成功しましたが、当初ファン・ダイクとセンターバックを組んでいた時は、圧倒的な個人能力で存在感を示すパートナーに対し吉田選手はフォロワーとしての役割を担っていました。
そのファンダイクがしばらくして怪我をして以降、彼が最終ラインのリーダーと変わっていく事になりましたがその辺りが彼が一皮むける事に繋がった、変化したタイミングだったのではないかと思います。
ウェストハムに移籍したフォンテからは移籍をする時に『これからは今までよりもっとマヤがリーダーシップを取っていくんだよ』と言われたそうです。それだけ吉田選手が選手達から信頼を得ていたという事だと思いますし、今年1月に現地で話を聞かせてもらった時に見せてもらったのですが、クラブの公認マガジンの表紙に吉田選手が選ばれ彼のロングインタビューが掲載されていました。そういった扱いを受けている点でも、現地での評価と信頼が上がっているのだなと強く感じました」
――吉田選手は現地メディアの取材で英語で応えていますよね。そういった部分も評価にあるのかもしれません。
「きちんとした英語を使いこなせますし、言葉を生かす為のコミュニケーション能力も高いと思います。
またリーダーとしての自覚みたいなものも芽生えつつ無理にそう振舞おうとはしていない、自然体なところも今の評価に繋がっているのだと感じます。
その中でもピッチの上では味方に対し厳しく要求する姿も見られるようになり、それまでには見られなかった自信や風格が少しづつ出てきていますし、ファンダイクが怪我をしたことによりセンターバックを組むパートナーがスティーブンス(23歳)に変わったところからは“オレがやらないと”という引っ張っていく側としての責任と自覚が出てきた。フォロワーからリーダーに変わった事で新たなフェーズに入り始めたタイミングだったのではないでしょうか。
当初はやや不安定で心許ない感もあったセンターバックコンビでしたが、このチャンスは絶対に逃さないという吉田選手の思いの強さとパフォーマンスの高さ、そしてスティーブンスの成長もありリーグカップはファイナルまで進出するという結果も残し素晴らしいシーズン後半となりましたね」
――29歳の誕生日に3年間の契約延長をつかんだというのも、信頼の証拠ですよね。
「そのクラブに加入しただけでなく働きを評価されて契約を延長したわけですから、これはもう素晴らしいの一言です。
冒頭に吉田選手はセンターバックとしての総合力に優れているという話をしましたが、とは言えイングランドのセンターバックに求められるのは“守ってなんぼ”という事です。
これはイングランドに限った話ではありませんが、海の向こうの世界においてセンターバックに何より求められているのは、相手のストライカーを止めること。
とにかく止めることです。
ですから彼自身もセーフティーファーストで難しいことをしすぎないように意識をしている、と話してくれましたし、実際の試合を見ていても繋ぎたいけども繋げなかったら……という場面ではあえてシンプルにクリアをするといった迷いのないはっきりとしたプレーを選択する判断を下すようになっています」