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柏木陽介がACLの大逆転劇を語る。
10番の意地に浦和サポーターが……。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2017/09/14 17:00
浦和レッズの10番柏木陽介は、長らく勝負弱い選手と言われてきた。しかし、この日の彼は勝負どころを見極める力を存分に発揮していた。
川崎のプレッシャーが薄いことを察知した柏木。
そして、満を持して先発メンバーとしてセカンドレグのピッチに立った柏木は、試合直後から川崎の変化を感じていた。
「普段の川崎はもっとプレッシャーをかけてくるチームなのに、2点差があるうえ、アウェイゴールを奪ったこともあってなのか、それほど強烈なプレッシャーがなかった」
退場者が出て10人ではあったものの、スコア的にはまだ川崎が有利。しかし、前半42分に中村憲剛を下げる。その交代理由として「運動量への不安」を鬼木監督は試合後挙げている。
一発のパスで相手に脅威を与える中村の不在は、浦和にさらなる優位性を生んだに違いない。精神的支柱であり、スタイルの創造者でもある中村がいなくなったことで、川崎はらしさを失っていく。
それでも、柏木はこの試合を通して高く保った「攻守のバランス」についての意識を緩めることはなかった。
「得点が必要な状況には変わりはない。そうなると、うちは前への意識が強く出すぎる選手が多い。だから行くときは行くけれど、『落ち着け』と声をかけ続けた。絶対に時間が経てば、相手も疲れてくるからって」
「90分の間にもう1点とって終わらせるぞ」
後半になると浦和が圧倒的に敵陣へ押し込む展開になる。しかしDF陣の無謀な攻め上がりもわずかで、帰陣も速かった。川崎GKチョン・ソンリョンの好セーブもあり、追加点はなかなか奪えなかったが、何度も訪れた浦和のCKが押し込み具合を物語っている。
後半18分、センターバックのマウリシオに代えてズラタンを投入し、浦和は高さでの勝負を仕掛けた。そして後半25分、柏木のCKをズラタンがゴールに押し込む。
「相手が結構疲れてきているのはわかっていた。良いタイミングで前へ飛び出せたらいいし、サイドでサポートすることで、チャンスが生まれるだろうと思っていた。そして斜めのランニング。これを効かせればさらに相手は疲れるに違いないと。そういうなかで、俺のパスを受けて、ラファがうまくターンし、ゴールを決めてくれた。
柏木がこう語ったように、後半39分にラファエル・シルバのゴールでセカンドレグスコアを3-1とし、ついにスコアが並ぶ。このまま終わっても11人対10人で延長戦を戦える。
「3点目が決まった時、絶対に90分の間にもう1点とって、終わらせるぞとみんなの気持ちが見えた。そういう気持ちが乗っていたから、トシ(高木)のシュートがゴールへ吸い込まれたんじゃないかな。だけど、そういうときでもしっかりリスクマネージメントできたことが大きい」
後半40分に1ゴールを追加した浦和はそのまま逃げ切り、準決勝進出を決めた。