フランス・フットボール通信BACK NUMBER
プレミアのキック&ラッシュは終焉か!?
外国人監督急増による戦術革命を検証。
text by
パトリック・ウルビニPatrick Urbini
photograph byAlain Mounic
posted2017/08/27 09:00
プレミアリーグの多くのクラブが、勝つため必然的に、伝統的な「キック・アンド・ラッシュ」を放棄し始めた。
最先端の戦術を持つ強豪に、同じ戦術で臨む愚かさ。
バーンリーのショーン・ダイシ監督は、マンチェスター・シティと対極をなす自分たちのプレースタイルをこう説明している。
「もしもわれわれがポゼッションやテクニカルなクオリティでマンチェスター・シティに対抗しようとしたら、あるいは同じプレースタイルでチェルシーと戦えば、試合前から勝者は決まっている。
だが逆にわれわれが彼らを自分たちのフィールドに引っ張り込めば、彼らもときに思うようにはプレーができず、力関係を変えることができるかも知れない。
今日のサッカーで最も重要な瞬間は攻守の切り替えのときだ。そこからふたつの選択肢が生まれる。
ひとつはボールを持てるときにしっかりキープすること。もうひとつはボールを奪うや否や時間をかけずにできるだけ早く前に運ぶことだ。それこそがプレミアで求められる技術的・戦術的なクオリティである。ただ、幾つかのチームが相手のときはボールキープが極端に難しくなる。だからこそ後者(ショートカウンター)をしっかりと準備しなければならない」
この「後者」で述べられた“速さ”を軸にした戦術こそが、年間最優秀選手に選ばれたエンゴロ・カンテを持つアントニオ・コンテの論理であり、マウリシオ・ポチェティーノを持つユルゲン・クロップの論理なのである。それは、基本ストラテジーを高い位置からのプレスと、質と密度の高いボール奪取と素早い反撃、アタッキングサードでの違いを作り出すことに置いているジョゼ・モウリーニョの論理でもある。
最新の戦術に必死に抗うための……伝統的な戦術。
ポゼッションにはこだわらないクロップを、グアルディオラはこう評している。
「ボールを持とうが持つまいが、彼のチームには驚異的な密度の高さがある。あれほどの人数と運動量で攻撃を仕掛けられるチームは他にない」
それができない他のチームに残されているのは、かつてのイングランドサッカーの残滓のみである。
それはバーンリーが好むセカンドボールへのアプローチであり、ウエストブロムウィッチやスウォンジーが得意とするセットプレーであり、ワトフォードが昨季愚直なまでにこだわったダイレクトなプレーである。
彼らのプレーのなかに、イングランドの旧き伝統は息づいている。