炎の一筆入魂BACK NUMBER
優しい人間は生き残れない世界で。
広島・大瀬良大地が求める強さの形。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byKyodo News
posted2017/07/24 17:00
無事勝てた……お互いに激投の労をねぎらった大瀬良と中崎。この信頼関係が鉄壁の継投を生み出している。
苦しんでいる人を、どうしても放っておけない性分。
床田は左ひじの状態が思うように上がらず、焦りや不安が募る日々を過ごしていた。
一進一退のリハビリは精神的な負担も大きい。6月には「心が折れそう」と話していた、その新人左腕と昨年の自分が重なった。
「僕も昨年そうだったから分かるんです。思うように上がって来ない時期が長くてしんどかった。そのとき僕の場合は自分に合ったストレッチというか、マッサージ法があったので、床田に合えばと……」
苦しんでいる仲間、悩んでいる後輩のためにいてもたってもいられなかった。
休日を使ったのはチームメートのためだけではなかった。
昨年4月には、休日を利用して地震からの復興を目指す熊本に足を運び、水や缶詰などの食料品を届けた。地元・長崎と同じ九州で起きた被害に、いてもたってもいられなかったという。
大瀬良という人間はそんな人間だ。
普段は優しい。マウンド上でもやっぱり優しい。
もちろん広島ファンにも優しい。
年明けの大野練習場では門の前で待つファン全員にサインしていた。長い列を2周するファンがいても、嫌な顔ひとつしない。寒い中、ファンの「あけましておめでとうございます」という新年のあいさつに、「あけましておめでとうございます」と返しただけでなく、「今年も応援よろしくお願いします!」と続けた。
普段優しい性格でも、戦いの舞台であるグラウンドに立てば表情が一変する選手は多い。だが、大瀬良はマウンド上でも柔和な表情に見える。時折、笑顔も見られる。
そんな姿に「厳しさが足りない」、「もっと戦う気持ちを前面に出せ」などと厳しい声が聞かれる。