炎の一筆入魂BACK NUMBER
優しい人間は生き残れない世界で。
広島・大瀬良大地が求める強さの形。
posted2017/07/24 17:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
Kyodo News
イニング途中で交代が告げられても、広島大瀬良大地はマウンドを降りようとはしない。
交代に抗議の意志を示しているのではない。自分への怒りというわけでもない。
理由は、代わりに登板する中継ぎ投手に声をかけるためだ。
7月18日、甲子園での阪神戦がそうだった。9点の大量援護をもらい、7回まで3安打投球。だが、8回に2四球などで満塁とし、押し出し死球で失点をした直後に交代を告げられた。点差や球質を考えると厳しい継投の判断。自他への怒りで足早にベンチに引き上げても不思議ではないが、大瀬良はリリーフカーに乗る2番手・中崎翔太がマウンドに来るまで待った。
「ごめん。頼んだ」
そう言ってマウンドを降りる。
大瀬良という選手はそういう投手なのだ。
「優しい人間は生き残れない」と言う人もいるが……。
その日だけじゃない。降板しても、ベンチの最前列で声を張り上げる。好投しても、不甲斐ない投球であったとしても、仲間に声援を送る。たとえ中継ぎが逆転を許して自分の勝ち星が消えても、ベンチに戻る中継ぎを最前列で出迎え、労をねぎらう。
勝負の世界では「優しい人間は生き残れない」とよく言われる。もちろん、プロ野球の世界も同じだ。
高いレベルの中の競争を勝ち抜くためには、優しさが隙を生み、弱さとなることもある。大瀬良自身、プロ入りしてから何度もそう言われてきた。
でも、大瀬良は優しい。
球宴期間中に与えられた2日間の休養日のうち1日は、後輩のために使った。開幕ローテ入りしながら、左ひじ痛でリハビリを続けるドラフト3位左腕・床田寛樹のもとを訪れるためだった。