球体とリズムBACK NUMBER
目新しい事をせず、ただ勝利する。
ジダンがいる限り黄金期は続く。
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byAFLO
posted2017/06/09 11:00
ジダンがなぜ勝てるのか、に対する明確な答えはまだない。しかし、ジダンが勝つ監督であることはどうやら間違いなさそうだ。
ハーフタイムにジダンがチームに伝えたこと。
おそらくそれは、レアルの練習場やドレッシングルームにもある光景だろう。どれだけ大金を稼ぎ、何人もの美女と浮名を流すスーパースターであろうと、ジダンが語りだしたら、先生に教えを請う良き生徒になるはずだ。そして、数々の金言を額面通りに信じる。
実際に決勝でも、このフランス人指揮官のハーフタイムトークがカギになったと選手たちは振り返った。
「もっと攻撃的に行こう。ユーベに簡単にボールを持たせないように、と彼はハーフタイムに言った」とチームの中核を担うルカ・モドリッチは話した。
「ジダンはピッチ上に改善点を見つけたら、選手たちにそれを伝える。そして僕らは全力でそれに取り組むんだ」
信頼関係は相互にある。
「相手陣内でプレーしよう。フットボールを知っている君たちなら、間違いなくできる」とジダンはハーフタイムでの自らの言葉を明かし、2得点を決めたロナウドは「ジダンは僕たちを心から信じてくれていた」と誇らしげに語った。
この32歳のポルトガル代表は、グループステージ第3戦から準々決勝を迎えるまでゴールに見放されていたが、8強以降の5試合で10得点。3度のCL決勝でゴールを挙げた初めての選手にもなった。
現役時代の自分よりも「ロナウドが優れている」。
マンオブザマッチの受賞会見で「数字は語る」と言い切ったCR7。彼がクライマックスに爆発できたのも、ジダンとの話し合いによるところが大きい。年齢を考慮して、リーガの数試合を温存することで、最も重要な瞬間に結果を出せるようにしたのだ。
また前日の会見では、現役時代の本人とロナウドを比較してほしいと訊かれ、「間違いなく、ロナウド(が優れている)。彼はより多くのゴールを挙げている。得点は最も重要なものだ」とジズーは答えている。
そして地元の英雄ベイルにも、試合終盤にチャンスを与えた。時間の経過とともに存在感を増したイスコとではなく、指揮官の同胞の愛弟子カリム・ベンゼマとの交代。誰もが納得し、多くの人の喜びにつながる粋な計らいにより、ベイルは出生地で欧州制覇を成し遂げた6人目の選手となった。