「想像以上のスライダーでした。ボールが消えた」

　しかし、安田の言葉を聞くと、桜井の真っ向勝負には意義を感じた。

「想像以上のスライダーのキレでした。ボールが消えるというか、ストレートに思えた球が変化したんです。清宮君が5三振した気持ちも分かりました。初めて体験したボールだったと思います」

　勝った方に、これだけ言わせたのだから立派である。

　桜井本人は「飛ばし過ぎて、体力が足らなかった」と振り返ったが、全力を出し切ったからこその反省点といえる。

　当然、公式戦では勝利という結果を求めるのは必要なこと。しかし、春の甲子園は全国の猛者たちとの自身の実力の差を測る場でもあるのだ。

「負けたことの方が印象に残っていますが、自分の力がどこまで通用するか知りたかった」

　試合後、桜井は今回の甲子園をそう振り返り、手ごたえを感じている。これをいかに勝利につなげるかは、お立ち台の隣で温かい眼差しを送った小倉監督と夏までに取り組むことになるのだろう。

熊本工の山口翔も智弁学園打線の前に苦しんだ。

　続く第3試合に登場した熊本工のエース・山口翔は、昨年の覇者に対し、真っ向から挑んでいくつもりだった。

　山口は150kmに迫るストレートとカットボールを駆使する。しかし智弁学園打線の前に、その力量は発揮されなかった。

　1回、不運な形で山口は失点する。1死一塁で走者の加堂陽太に盗塁を許すと、送球を焦った捕手が悪送球。1死三塁となり、3番・西岡寿透に右翼前に落とされた。

　3回には加堂に左翼前ヒットで出塁を許すと、西岡に再び適時二塁打を打たれて1失点。5回にもワイルドピッチで1失点。じりじりと離された。

【次ページ】　いきなり148kmのストレートを計測したが……。