いきなり148kmのストレートを計測したが……。

　山口はこの時、すでに平常心ではなかったと振り返っている。

「出だしはそんなに悪くなかったんですが、追加点を取られてから焦ってしまって、気持ちがマイナスの方向に進んでしまった。悪い方にばかり考えてしまった」

　とはいえ、山口の出来は決して悪くはなかった。いきなり148kmのストレートを計測するなど、九州屈指の右腕であることはうかがえたが、対戦相手を意識し過ぎたようだった。

　捕手の丸山竜治が代弁する。

「相手の智弁学園がストレートを狙ってきていたのが分かったんです。それでも押していけば空振りか、悪くてもファールを取れたと思うんですけど、変化球でかわそうという気持ちになったのが良くなかった」

　高校野球の鉄則として、四球で走者を許すと試合の流れをつかみ切れない。

　1回、5回の失点はそれぞれ四球が絡んでいる。

　山口は少しずつ自身のスタイルを見失ってしまったのだろう。もともと四球癖のある投手だが、智弁学園打線を脅威に感じれば感じるほど、気持ちが守りに入り、本来の持ち味が消えていった印象だった。

　6回表にも、先頭に四球で出塁を許す。すると足を絡めた攻撃に翻弄され3失点。一気に試合は決まった。

それでもアウトローにしびれる直球を投げ込んでいた。

　それでも、山口に高いポテンシャルを感じたのは、時折、アウトローにしびれるようなストレートを投げ込んでいたからだ。それだけに相手をリスペクトすることは大事だが、過剰に対戦相手の力を膨らまし、自ら崩れてしまったのは非常にもったいなかった。

「立ち上がりは球も走っていたし、前向きに考えていたんですけど、先制点を獲られてマイナス思考になっていってしまった。点をやったらいけない、ボールになったら……と考えてしまいました。自分の悪い所ばかりが出たピッチングだった。自分の力は出し切れなかったと思います」

【次ページ】　夏には“別人の山口”となって甲子園に戻ってくる！