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五輪メダリスト・奥原希望の勇気と苦悩。
「人生のドラマの主役は私なんです」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph bySho Tamura/AFLO SPORT
posted2017/03/07 07:00
昨秋のヨネックスオープン、準々決勝での奥原。絶対に諦めないという気持ちで必死に戦ったが、膝が、肩がついてこなかった……。
メダルの「しんどさ」は「幸せ」でもある。
「いろんなことも含めて、全英で私のプランがだいたい立つのかなって思います。
この大会は私のリスタートなんです。復帰戦でいきなりバーンって勝ちました。そんなシンデレラストーリーを描けるのならベストですけど、勝負は甘い世界じゃないし。
オリンピックの経験も含めて、周りに何を言われようとも私が目指す場所はブレませんよ」
過去は過去なんで、と言い奥原は笑った。そんな彼女だからこそ、どうしても聞きたいことがあった。
――「メダルなんて獲らなければよかった」と思ったことはないか?
奥原から笑みが消える。憤りの意思表示ではなく、メダリストとしての信念を再確認しているようでもあった。彼女が想いを紡ぐ。
「一度も思ったことがない。だって、メダルを獲った人にしか分からないしんどさを経験したんですよ。それって幸せじゃないですか!
獲れなかったら『次こそは!』ってモチベーションにできるし、そっちのほうがエネルギーは強いかもしれない。でも、私たちはメダルを目指して頑張っているわけだから、メダルを獲った上でいろいろ経験をしておいたほうが絶対にいい。私は『メダルはもう関係ない』って思っていますけど、これからもメダリストとして戦うことは変わらないし、そういう自分って幸せだなって思います」
リスタートの戦いが間もなく始まる。
舞台はイギリス・バーミンガム。
ウォーミングアップではいつものように西野カナの曲を聴く。最後はお決まりの曲『Every Boy Every Girl』でテンションを上げる。そして、基本練習が終わると一旦ベンチに戻り、スポーツドリンクと水の順番で口を潤す。最後にコートの前に立ち、その時舞い降りた言葉を呟き、一礼してからラケットを握り締める。
一歩踏み出した先は、また苦しい道である。だが、その道を選ばないシンデレラに、オリンピックの女神は微笑まない。