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五輪メダリスト・奥原希望の勇気と苦悩。
「人生のドラマの主役は私なんです」
posted2017/03/07 07:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Sho Tamura/AFLO SPORT
心のモヤモヤが、ようやくなくなった。
自分が納得した状態で試合に臨めるのは、リオ五輪以来、約7カ月ぶりである。本格的な復帰戦となる、スーパーシリーズ(SS)の全英オープン(日本時間3月7日開幕)を間近に控えていた奥原希望に、いつもの笑顔が戻っていた。
「本当に楽しみです。今までは『肩を万全にしなきゃいけない』って、ずっとリハビリをしていて、バドミントンに対して意識を向けられなかったので。
全英に出ることで課題とかを見つけられたら、これからどんどん追求できることが増えてくるのかなって。だから、まずは試合に出て。
もちろん、勝負だから勝つことが大前提だし、不安はありますけど、あの頃のモヤモヤに比べたら全然楽しみです。いろんな意味で『何を見つけられるか?』ってワクワクしかないですね」
奥原が「あの頃」と言ったのは、昨冬の全日本総合選手権のことである。
リオ五輪後から抱えていた右肩の炎症が悪化し、とても出場できる状態ではなかったが、彼女は出場を決意した。その理由に、「日本で一番格式のある大会だから、簡単に棄権はできない」という使命感。そして「右肩の回復の目途が立ちそうだった」こともあったようだ。
銅メダリストとして臨んだ全日本を途中棄権。
ただし、条件があった。
「絶対にスマッシュを打たない」
大会前、奥原が所属する日本ユニシスの小宮山元監督と、そう約束を交わしていたのだ。
優勝候補として臨んだ2回戦。リオ五輪銅メダリストのプレーはそこにはなかった。
奥原の持ち味である、コートを縦横無尽に駆け回る粘り強いラリーをする間もなく、相手に得点を重ねられる。強打が打てない。打てば、せっかく回復の算段が立っていた右肩が、ますます悲鳴を上げるだろう。第2ゲームの途中、奥原は棄権した。
無念の決断。
試合後の会見で、彼女は右肩の状態などを初めて明かし、「この壁を乗り越えて、また輝ける舞台を目指して頑張っていきたい」と声を震わせた。
奥原が当時の心境を話す。
「右肩の方向性がやっと見えてきて安心はしていたんですけど、試合前から『ダメでした』っていうのも言い訳になるし、出る以上は正々堂々と戦いたかったから。でも、会見では、いろいろ苦しかったことを振り返っちゃって……。気持ちを吐き出せるタイミングってあそこしかなかったから」