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五輪メダリスト・奥原希望の勇気と苦悩。
「人生のドラマの主役は私なんです」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph bySho Tamura/AFLO SPORT
posted2017/03/07 07:00
昨秋のヨネックスオープン、準々決勝での奥原。絶対に諦めないという気持ちで必死に戦ったが、膝が、肩がついてこなかった……。
メダリストのプライドが欠場を許さなかった。
五輪後、数多くのメディア対応やお世話になった人たちへのあいさつ回りなどで忙殺された。練習時間などまともに確保できない。それどころか、大会期間中に違和感を抱いた右肩の状態も、いよいよ怪しくなってきた。五輪直後のヨネックスオープンでは、ベストパフォーマンスを披露できるわけがない。
それでも、奥原は出場を決めた。
「本当は、ホッとひと息つきたい時期でもあって。でも、ヨネックスオープンに出て負けたら、『メダリストなのに……』って声も聞こえてくるんだろうなって思いました。あとは、日本開催ですし、いつも応援してくださっているみなさんに『恩返しをしたい。プレーを見てもらいたい』って気持ちが強くて。『どうしても出なきゃいけない』って出場したことが、後ですごく後悔するんですけど」
コンディションが万全ではない奥原の結果は明白だった。ヨネックスオープンは準々決勝で敗退。10月のデンマークオープンでも同じくベスト8で敗れた。右肩はというと、スマッシュをすると痛みは走るが、何とかコートには立てる。だましだまし。そんな状態のなか、デンマークから帰国した直後の練習で強打する。グリッ! 右肩に激痛が走った。
棄権するためだけの中国オープン出場。
11月。奥原は、棄権するためだけに中国オープンに出場した。周囲の過度な期待を背負うが故の苦悩。奥原が本音を述べる。
「自分としては、『リハビリも含めて一旦競技から離れて、体をリセットさせないとダメだ』っていうのは分かっていたんですよ。
でも、周りは私をメダリストとして見てくれているし、自分ではメダルを獲ったけど満足していないから『もっと上を目指したい』って思っていたから、『今は耐える時期だと思って、試合に出なきゃいけないのかな?』とか、いろいろ考えてしまって。
あの時はもう、心と体のバランスがぐちゃぐちゃでしたね」