マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
SB・松本裕樹は、じっくりと一軍へ。
担当スカウトが獲得を決めた日。
posted2017/02/16 07:00
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
7人の投手が横に並んで投げられるソフトバンク・春季キャンプの室内ブルペン。
打者から見ていちばん右のマウンドから、2015ドラフト1位・高橋純平(県岐阜商)が乾いた捕球音を、早めのピッチで捕手のミットに叩きつける。
そこから左に、マウンド3つ分空けて、2014ドラフト1位の松本裕樹(盛岡大付)が、こちらはゆったりと投球間隔をとりながら、1球1球、何かを確かめるように捕手のミットに投げ込んでいる。
思い出した場面がある。
2014年・夏の甲子園。
初戦で優勝候補の東海大相模と顔を合わせた盛岡大付。エース・松本裕樹のヒジの具合が予選中から心配され、果たしてこの一戦、彼の投げっぷりはどうなのか。
ファンもスカウトも熱く注目したこの試合で、盛岡大付・松本裕樹はいつもよりやや腕を下げたスリークォーターの角度から、120キロ後半の速球を見せ球にしながら、スライダー、カットボール、チェンジアップ、スプリット……多彩な変化球同士の緩急で東海大相模の強打線を終始翻弄。終わってみれば8安打3失点に抑え、8度目の“夏”にして初の1勝を盛岡大付にもたらす熱投を見せてくれた。
「立ち上がりに2点取られて、どうなるかと思って見てましたけどね。2回に三振2つ取ってピシャッと抑えて、あとは9回の1点だけですもんね」
「故障してますよ」というアピールが一切無かった。
スカウトは、こいつだ! と思った選手の“ここ一番”をよく覚えている。
ソフトバンク・作山和英は東北地区担当スカウトになって、今年で24年目になる。
「ちょっと前まで145キロ前後のスピード出していたピッチャーが、あの時はせいぜい130キロしか出ない。そんな状態だと、普通は腕を振ってみたり、肩を回してみたり、僕は故障してるんですよ……って、ジェスチャーでまわりにアピールするもんなんですよ。それが、あの時の松本はそういう言いわけがましいしぐさを一度もしなかった。あの時、彼が出来ること、つまりすべての持ち球を使って緩急でタイミングを外すっていうピッチングを、堂々とやってのけた。すごいな! と思いましたよ」