マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
SB・松本裕樹は、じっくりと一軍へ。
担当スカウトが獲得を決めた日。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/02/16 07:00
松本裕樹(左)は2年目の2016年に一軍で初登板を果たした。初めてとった3つのアウトを、彼はどのように記憶しているのだろうか。
作山「完璧に、僕らだましてくれましたから」
体調は不十分でも、とっさにピッチングのスタイルを変えて強敵を手玉にとってしまった野球センス、そして“しなり”を帯びた強さを感じさせる人間性。故障が明らかでも、スカウト・作山の中で「盛岡大付・松本裕樹」の評価はなんら変わることはなかったという。
「だって、すごいですよ。日本じゅうが注目している甲子園で、しかも注目の剛腕とか言われて出てるわけです。それが、ヒジを故障して130キロすら出るか出ないか。普通の高校生なら動揺しますよ。それを、“もう1人の松本裕樹”を作って投げて、あの東海大相模負かすんですから。しかもあとで訊いてみたら、あの試合、死ぬほどヒジが痛かったらしいんです」
プロで20年以上働いている男が、1人の高校生に、ほんとに驚いている。
「完璧に、僕らだましてくれましたから(笑)」
手がけた選手の“輝き”を語るスカウトの目は、その時、同じぐらい輝いて見えるものだ。
去年は二軍で35イニングで四球が3つ。
「ヒジはもう直りました。だいじょうぶですね、あの投げっぷりなら」
高橋純平のようなキレッキレの痛快さはないが、逆に、どっしりと落ちついた重厚さが伝わってくる投球フォーム。
左足の踏み込みに時間をかけて、リリースだって、そうは簡単にボールを放さない。“快速球”というほどじゃないが、若い投手なのに球道に間違いがない。
1年目はリハビリに費やしたが、2年目の昨季は、夏場からウエスタンに登板し始めて、シーズン後半の半期で5勝をあげ、すごかったのは、投げた35イニング3分の1で与えた四球がたったの3つ。確かな実戦力を証明してみせた。
「高校出て3年目でサイズが183(センチ)の83(キロ)。コンスタントに140キロ台が投げられて、変化球も球種が多くて、緩急にコントロールも持っている。そんなピッチャー、今の大学3年生の中で探してこいって言われても、そうはいませんよ」