マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
SB・松本裕樹は、じっくりと一軍へ。
担当スカウトが獲得を決めた日。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2017/02/16 07:00
松本裕樹(左)は2年目の2016年に一軍で初登板を果たした。初めてとった3つのアウトを、彼はどのように記憶しているのだろうか。
「よそなら、立派な有望株でしょうね……」
ならば、立派な有望株じゃないか。
「よそなら、そうでしょうね……」
作山スカウト、すぐに返してきた。
「140キロ後半当たり前、150キロ台も珍しくない。それがウチの一軍の連中じゃないですか。ピッチャーとして働けるいろんな要素持ってても、数字がそこまでじゃないと『もう少しだな……』っていう採点になることもありますから」
高校時は4番打者として54本の本塁打を飛ばしたスラッガーでもあった。50メートル6秒ジャストぐらいで走る俊足に、フィールディングの上手さも高校の頃の実戦でしっかり見覚えがある。
それなら、野手に転向させたら……みたいな空気にもなってくることも。
「わかりません、それは球団の決めることですから。でも、ないとは言いきれない。ウチの選手はそれぐらいのレベルですからね」
チームが強くなればなるほど、若い選手たちのハードルは高くなる。
「でも、ヒジが痛くて投げられない状態で入ってきて、よくここまでねぇ……」
ヒジの故障は治るというのが定説になりつつある。
多くの報道陣に紛れるように、投げている松本裕樹の視野に入らない位置で、ひっそりとピッチングを見守る。
「よく言われますよ、故障してるピッチャーをよく1位で、って。ただ、ヒジでしたからね。ヒジの故障は治るって、今はこのほうが定説になりつつありますから」
でも、心配だったでしょう? と訊くと、
「そりゃあ、心配でしたよおー!」
明るい叫び声が返ってきた。
投げられるようになったからよかったけど、もし投げられないままだったら……。そんな“安堵”が目一杯こもっているように聞こえた。