JリーグPRESSBACK NUMBER
いつもマリノスと共にあった……。
中村俊輔、心の痛みと新たな旅立ち。
posted2017/01/12 17:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
JFA
あのときの中村俊輔は、どこか寂しげだった。
12月29日、大阪・長居スタジアムで行われた天皇杯準決勝。鹿島アントラーズに敗れるとキャプテンは、ピッチに座りこんだ齋藤学を引き上げて背中をポンと叩いた。そしてチームメイトを引き連れてサポーター席へと向かい、一列に並んで頭を下げた。
「シュンスケー!」
その声に反応するように彼はサポーター席を眺めて拍手をしてから、クルリと背を向けた。もう一度手を挙げて声援に応じる。足元を見つめながら前へと進んでいく。その姿は、迷いを断ち切ろうとしているようにも感じられた。
彼にとってマリノス最後の試合になるかもしれない。その思いもあって、筆者はマリノス側の観客席から試合を見ることにした。ファン、サポーターにとってどれほどの存在なのかを、あらためて肌で知っておくために。
残留を望むサポーターたちの願いは、彼に対する思いは、痛いほど伝わってきた。背番号10の胸にも突き刺さったに違いなかった。
「自分がマリノスを離れるなんて考えたこともなかった」
1月8日、「俊輔、ジュビロ磐田移籍合意」の新聞報道を受けて筆者は横浜へと向かった。正式発表と同時に、中村が取材対応することになった。
「(現役生活は)そこまで長くないと思うので、だからこそサッカーへの情熱だったり、純粋にボールを追いかけてもう1回勝負したい。信頼とか、そういうものを感じながらサッカーをやりたい」
移籍を決断した理由を自分の言葉で語っていると、ゆったりとした口調がちょっとずつ速くなっていった。
「自分がマリノスを離れるなんて、そんなことを考えたこともなかった。苦しい時間だった、今シーズンは。サッカー人生のなかで、今までになかった。ましてやマリノスのユニホームだし、そんなのは脱ぎたくないでしょ、引退以外……。でもやっぱり、さっきいった(勝負する)ことをやらないと、10年後か20年後か分からないですけど、悔いが残るなというのはあったんで……」
慎重に語っていたなかで、彼の感情が表にあらわれた瞬間でもあった。声が一瞬、上擦った後で感情を再び抑え込んだ。