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今も、横断幕の話をする目には涙が。
李忠成が「浦和の一員」になるまで。
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/12/06 17:00
五輪で興梠慎三が離脱する時期もあるなか、二桁得点を決めて年間勝ち点1位に貢献した李忠成。浦和との幸せな関係は彼の努力の賜物である。
「JAPANESE ONLY」の話をする目には涙が……。
前日練習の途中でジェスチャーを交えて伝えていた症状は、肋骨の骨折によるものだった。満身創痍の中で出場したい気持ちも、チームに伝えたいメッセージも届かなかった。「レアル(マドリー)とやるつもりだったから。ケガしちゃったけど、最後は……」と、クラブワールドカップを見据えていた中で、シーズンオフの始まりが唐突に訪れてしまった。
それでも、今季の彼が浦和にとって大きな存在だったのは間違いない。10月15日のルヴァン杯決勝のガンバ大阪戦では、途中出場で起死回生の同点ゴールを決めて、クラブの国内10シーズンぶりのタイトル獲得に大きく貢献した。途中出場のために彼がピッチの脇に立った時、間違いなく浦和のサポーターには期待感と、託すような思いがあふれていた。そうした変化をどう感じ取ったのかを問いかけた時、「正直……」と話し始めようとした彼の目から涙がこぼれた。
「レッズにきて、本当に自分以外の人たち、家族が悲しんだのが本当に辛かった。『JAPANESE ONLY』から始まり、ウチの実家も1週間警察がついていたくらい、周りの人たちが大変だった。うちの親も最初は来ていたけど、色々なことを聞いて途中から来なくなった。何か、試練というか……」
李は、横断幕を自分へのメッセージだと受け取った。
李が浦和に加入したのは2014年シーズンだった。同時期に加入したGK西川周作と第1次キャンプの中から合流してきた。サンフレッチェ広島時代に旧知のペトロヴィッチ監督の戦術だけに、チームへの溶け込みは非常に早かった。「ゴールとタイトルを浦和に」と、意欲にあふれたスタートを切った。
それでも、開幕からわずか2試合目、ホーム開幕戦のサガン鳥栖戦のことだった。後に社会問題にもなった「JAPANESE ONLY」の横断幕が埼玉スタジアムの浦和ゴール裏ゲート入り口に掲げられた。その真意は、結局のところ掲げた者にしか分からない。しかし、李はそれを自分へのメッセージだと受け取っていた。