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今も、横断幕の話をする目には涙が。
李忠成が「浦和の一員」になるまで。
text by
轡田哲朗Tetsuro Kutsuwada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2016/12/06 17:00
五輪で興梠慎三が離脱する時期もあるなか、二桁得点を決めて年間勝ち点1位に貢献した李忠成。浦和との幸せな関係は彼の努力の賜物である。
「プレーする前からブーイングされるようなことは」
彼自身もまた、イングランドのサウサンプトンでプレーしていた時期に負傷してからのコンディションの悪さを引きずっていた。思うようにプレーできず結果が伴わなかったこと、広島在籍経験のある選手の加入が続いていたこと、そして、もしかしたら彼が韓国から帰化した選手であること――。
新加入選手を無条件には受け入れず、活躍を示してから声援が大きくなる伝統を持つ浦和サポーターであるにしても、彼に向ける視線は必要以上な厳しさの方が目についた。
北京五輪でチームメイトだったFW岡崎慎司が昨夏にイングランド移籍を決めた時、彼に日本人選手がイングランドで活躍するために必要なことを聞いたことがあった。ひとしきり話が終わった後に、「イングランドではプレーする前からブーイングされるようなことはないから大丈夫ですよ」と去り際に話した。それは、自身が浦和サポーターに対して思うことの一端だった。
サポーターを、自分から好きになってみようとした。
それでも、彼はそのサポーターを受け入れようとした。昨年の秋、それまで反発心や反骨心の対象であったサポーターを「自分から好きになってみようと思った瞬間に、世界が180度変わった」。表情は柔らかくなり、プレーもみるみるうちに向上していった。そして迎えた今季は、彼にとって契約の最終年だった。
「乗り越えられない試練はないと自分の中で思っていて、レッズが世界的なクラブになる布石というか、そういうものだと思って今まで頑張ってきた。今年で契約が切れるので、レッズのためにどうにかしてから、悔しい思い、悲しい思いをプラスに変えようという思いでいたので。今年、(リーグ)優勝を取れなかったけど、(リーグ)年間1位もルヴァン杯も取れたし、自分が何か貢献できたという気持ちがあるので、それが神様からのご褒美なんじゃないかなと思います」