錦織圭、頂への挑戦BACK NUMBER
同世代ラオニッチ、チリッチが躍進。
“安定した錦織”から脱皮すべき時。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byHiromasa Mano
posted2016/11/24 11:45
世界ベスト8だけが出場できるファイナルズに3年連続で出場した錦織。これ以上の活躍は世界王者レベルということになるが……。
マレーとジョコビッチの世代を押しのける役割として。
マレーvs.ジョコビッチの出来すぎたシナリオを最後に書き換えることができる者はもう彼らしかいない……。
確かに今回のストーリーにおいては脇役ではあった。しかしこの上なくスリリングなシーンを得た脇役たちである。
準決勝の1試合目、まずラオニッチがその役を見事に全うした。
会場の9割以上がマレーを後押しする中で、3日前の錦織vs.マレー戦が記録した大会最長記録の3時間20分を上回る3時間38分の激戦を繰り広げ、最終セットのタイブレークはマッチポイントが両者の間を行き来する緊迫した展開。そこまでやって最後は敗れるという、観客にはたまらない山場を作ったわけだ。
これで残された最後の脇役が錦織となった。
マレーとラオニッチの試合のようなドラマを楽しみにしたファンは多かっただろう。第1戦での対スタン・ワウリンカ戦の完璧な勝利、第2戦の対マレー戦でのハイレベルなプレーによって現地でも錦織への期待値は高かったのだ。しかしその期待はむなしく、わずか1時間あまりで敗れる残念なパフォーマンスに終わった。
同世代のチリッチ戦敗北は、準決勝にも響いたはず。
一昨年は1シーズンに4回も対戦した錦織とラオニッチは不思議なことに今年1度も直接対決がなかったが、少なくともこの日の軍配はラオニッチに上がった。また、チリッチはラウンドロビン最後の一戦で錦織に勝っている。
敗れて準決勝に進む錦織圭と、勝って去るチリッチ。
皮肉な結果になったが、同じ1勝2敗なら、直接対決に勝ったほうが「勝った」気分になるのは当然で、錦織もこの敗戦が翌日の準決勝に尾を引いたことは間違いない。
すでに2年前の全米オープンで錦織を破ってグランドスラムタイトルを手にしているチリッチは今年、初のマスターズシリーズ優勝も果たし、自己最高の6位でシーズンを終えた。ラオニッチはウィンブルドン準優勝でポイントと評価を稼ぎ、やはり自己最高で、錦織がまだ達したことのない3位という場所でシーズンを終えた。それぞれに、十分充実した1年だったことだろう。
では、錦織はどうか。