マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
唯一の10位指名、ドラフト最後の男。
西口直人に期待する“甲賀”の恩師。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/11/06 11:00
指名を受けてのコメントでは「真っ直ぐで押せる投手になりたい。楽天の則本昂大投手のような投手に」と語った西口。
西口には「考える心があるかどうか」とうるさく言う。
もっと言ってやったらよかったのかもしれんけど……。
言おうか、言うまいか。
相手はプロに進んだ教え子。出すぎたことをしてもいけないし。
そんな逡巡が、あとになって、ほろ苦い悔いに転ずることもある。
「だから、西口にはうるさく言ってるんです。プロは、実力だけあっても生き残っていけるわけじゃないんだって。素質と実力は、みんな持ってますからね。考える心があるかどうか、その差が残る者、消えていく者の違いになっていきます。頭使って、辛抱強く、用心深く。体のケアも毎日時間を使ってていねいにやらんと、次の日の練習に“100”で出掛けて行けんでしょう」
監督自身、社会人野球の第一線で長く現役を続け、プロ野球へ進んだ選手たちを何人もその目で見続けてきた。
野茂英雄のようにメジャーで大活躍した者、日本のプロ野球でも力及ばなかった者。人生の見本は、数え切れないほど彼の前にあった。
「西口に初めて会った時、あいつ、『ボクはプロに行きたいんです! そのための進路を探してます』ってね、はっきりした言い方で返事しましてね。高校の時は、フォームが強引だったせいで、肩が痛いとかヒジがどうとか、よく言ってたんですよ。
痛いって言っても、それが故障なのか、ちょっと使って張りが出てるだけなのか、そんなこともわかってない中で、『プロに行く』ってベクトルだけは強烈にあった。そんなヤツだから、ウチの2年間でも、ものすごく頑張り屋でした。プロでやるんや! っていう意地をね、感じましたね」
「ドラフトは決して、実力ランキングじゃない」
唯一の10位指名。今年のドラフト指名最後の1人。
まったく気にしていないと、藤本監督は言いきった。
「ここの最初の1年間は徹底的に体作り。2年目の今年も、そんなに無理させてないから目立ってない。僕がスカウトでも、上位じゃ指名しないですよ。やっぱり、みんなが知ってる“有名人”は早く指名されるし、ポジションだって、バッテリー、内野手は早いし、外野手はどっちかというと後回し。毎年、そうですよね。ドラフトは決して、実力ランキングでも素質ランキングでもない。勝負は入ってからですから」