スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
フェルナンデスと作家キンセラ。
ふたりへの追悼と、イチローと。
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byAFLO
posted2016/10/01 11:00
現地時間9月26日、マーリンズは試合前にフェルナンデスを追悼するセレモニーを行ない、同僚も追悼の念をベースボールキャップに込めた。
マリナーズファンは、病気の猫を飼うような心境。
若いころ、シアトルをよく訪れていたキンセラは、急な坂道を登りながらいろいろな昔話をしてくれた。本屋や手品の話もおかしかったが、いまでもよく覚えているのは、'80年代に万年負け越しチームだったマリナーズを応援しつづけた話だ。彼はこういっていた。
「当時マリナーズのファンをつづけるというのは、病気の猫を飼っているようなものだった。絨毯にゲロを吐いても、蹴飛ばす者なんかいない。こいつは病気なんだ、よくなる日を待とうと考えて、来る日も来る日もキングドームの3階席に陣取っていたんだね」
その3階席で、キンセラはスパイク・オーウェンのファウルボールを何個も拾ったそうだ。「かならずそこに飛んでくるんだよ」とも付け加えた。愉快な人だった。ロサンジェルスのホテルで菜食主義の朝食が癇に障って、頭から湯気を立てている姿を見たことはあったが、近くのヒルトン・ホテルに連れていってベーコン・エッグを注文したら、機嫌はすぐに直った。楽しい思い出だけが残っている。