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イチローが向かう3000安打の“次”。
いわくつきの名打者と、逸話の数々。
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/08/30 07:00
8月29日時点の3009安打は歴代28位。主砲スタントンの故障で出番も増えている。
世界の盗塁王だったブロック氏が予見した未来。
イチローが残り14安打で追いつくルー・ブロック氏はどうか。
「このバットの形状って、どこから来たか知ってるかい?」
ブロック氏がそう問いかけてきたのは1998年、アイオワの田舎町にあるマイナーリーグ球団のチャリティー・イベントでのことだった。彼が手にしたバットはマイナー選手のものだった。
「先端がくり抜かれているだろう? こういうバットって昔はアメリカに無かったんだが、あるアメリカのチームが日本に遠征した際、サダハル・オー(王貞治)のバットを見せてもらって参考にしたんだよ」
ブロック氏の現役時代を見たことはなかったが、彼は元阪急ブレーブスの福本豊氏が破るまで938盗塁の世界記録を持っていた名選手だった。威厳のある物静かな話し方に、思わず背筋が伸びた。
「王のような突出した選手なら、アメリカでも……」
「日本に行って試合をしたことがあるビッグ・リーグ(大リーグ)の選手たちは、ヒデオ・ノモ(野茂英雄)が来る前から日本の投手たちのレベルの高さを知っていたし、王のように突出した選手なら、アメリカでも成功するんじゃないかと感じていた。今まで誰もやったことのないことをする時のガイド役は“志”だ。いつの日にか、そういう“志”を持つ選手が現れて、日本人野手がビッグ・リーグで成功する日が来て欲しいと私は思う」
ブロック氏がそう言った18年後、アメリカでもっとも成功している日本人野手が、同氏の安打記録を破ろうとしているのは、何とも感慨深い――。