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イチローが向かう3000安打の“次”。
いわくつきの名打者と、逸話の数々。
posted2016/08/30 07:00
text by
ナガオ勝司Katsushi Nagao
photograph by
Naoya Sanuki
当然と言えば、当然の話だが、メジャーリーグ通算3000安打を達成したイチローは今後、次から次へと歴代達成者を追い抜くことになる。
3000安打は史上30人しか達成していない記録だ。その前途には、メジャーリーグの名選手が待ち受けている。この原稿を執筆した8月24日の時点でイチローがあと1本で並ぶ、歴代27位・通算3010安打のウェイド・ボッグス氏は、ちょっと変わった人だったらしい。
ボッグスは現役時代、迷信家として知られており、毎朝同じ時間に起床し、試合前には必ず鶏肉を食べていたという。時間にもうるさく、午後5時17分に打撃練習をはじめたり、午後7時17分にダッシュをしたり。おまけに三塁の守備位置に就く時やベンチまでの往復に必ず同じ道筋を通り、打席に入る前には必ず“Chai(ヘブライ語で「命」の意味)”という言葉を地面に書いていた。
変わり者の安打製造機ボッグスの唯一の弱点は“女”。
そんなボッグス氏には一つ、弱点(?)があった。女性問題だった。浮気は日常茶飯事。その性癖を暴露され、裁判沙汰にもなっている。SNS全盛の昨今ならとんでもないことになっていたはずだが、ボッグス氏の現役時代の最後は、そんなスキャンダルもどこか「豪傑列伝」みたいな扱いをされていた。
ボストンのフェンウェイパークを中心に取材をしていた頃、今はお亡くなりになった球団関係者の人と夕食を摂ることになり、その席でこんな逸話を聞かされたことがある。
「ボッグスがデートしたがっていた女性がオレの知り合いだったんだけど、電話番号を教えてくれと何度も何度もしつこく聞かれ、『それだけは出来ない』と答えていた。なぜなら、彼の女癖の悪さは球界では有名で、自分の知り合いを彼の“犠牲者”の一人に加えたくなかったからだ」
問題だったのは、と彼は言葉を続けた。
「俺がボッグスのファンだったことさ。レッドソックスのクラブハウスで顔を合わせる度に電話番号を聞いてきたボッグスは、最後にはとうとう『お前の欲しいものは何でもやるから、何とか頼むよ』と言い出した。この誘惑には勝てなかった。俺は思わず『あんたの背番号26のサイン入りジャージーをくれるなら、教えてやってもいい』と答えてしまったんだ」
その後の顛末は「ご想像に任せる」と彼は言った。