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EUROで史上初めて実現した兄弟対決。
アルバニアとスイスに別れた“運命”。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2016/06/28 17:00

EUROで史上初めて実現した兄弟対決。アルバニアとスイスに別れた“運命”。<Number Web> photograph by AFLO

弟はスイスの10番を背負い、兄はアルバニアの14番を背負う。しかし彼らの心には「コソボ」も確かに生きているのだ。

EURO本大会出場は、歴史的快挙。

 4バックのDFラインの前に固まってコンパクトに戦うのが、アルバニアの基本戦術だった。ボールの集まるところに数的有利を作って、ボールを奪うと素早いリスタートを切った。

 守備陣がGKベリシャ(ラツィオ)やDFヒサイ(ナポリ)らセリエA経験者で固められていたこともあって、アルバニアは“ミニ・イタリア”と呼びたくなるような堅守のチームだった。

 昨秋、EURO本大会出場という歴史的快挙を達成すると、熱くなりやすいアルバニア国民は狂喜乱舞した。デビアージが首都ティラナを出歩けば、道行く人たちから口々に「監督、本大会では優勝だ!」と連呼された。

 冷静な指揮官は「サポーターの要求はつねに『攻めろ! 攻めろ!』。まるでアフリカのサッカーだ」と苦笑しながら、本大会に向けて慎重に準備を進めた。

初めての大舞台、緊張を解いた指揮官の喝。

 デビアージが危惧していたのは、国を挙げたお祭りムードの中で、初めての大きな大会に挑む選手たちの心理状態だった。

「初戦の緊張をコントロールしろ」と口を酸っぱくして言い続けてきたはずなのに、スイス戦のキックオフから5分後、自慢の守備陣はセットプレーからあっさり失点した。

 追い討ちをかけるように、経験豊富なはずのDFサナが前半終了を待たずに2枚目の警告で退場処分を受けた。心の昂ぶりを抑えられないアルバニアは、そのまま自壊するかに見えた。

「我々はここまで何しに来たんだ? サッカーをするためか、それともどこかの引き立て役に甘んじるためか? 予選を突破するのにどれほど苦労したのか思い出せ。試合に負けるのは構わん。だが、逃げ腰のまま負け犬になることは許さんぞ!」

 ハーフタイムの指揮官の喝が効いたのか、10人のアルバニアは後半、猛反撃に転じた。右SBヒサイとFW陣が次々にチャンスを作る中、中盤でタウラント・ジャカは黙々と汗をかいた。

【次ページ】 両国の国旗をくっつけたTシャツで観戦した兄弟の母。

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