セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
解雇が最も身近な職業はセリエ監督?
1年で8回監督を交代したクラブも。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/04/21 17:00
スパレッティ(左)とトッティの権力闘争はスパレッティの勝利に終わった。来季、ローマに彼の席はあるのだろうか。
今季最高の成功例はローマのスパレッティ監督か。
シーズンのタイミングを問わず、現場を仕切る責任者を替えることは、大きなリスクを伴うギャンブルだ。
今季、監督交代を断行した9クラブのうち、その賭けに最も大勝ちしたのは、ローマのパロッタ会長だろう。
王者ユーベを撃破したシーズン序盤こそ、今季こそタイトル獲得だと意気込んだが、チームは波に乗れずズルズルと順位を下げた。
パロッタとサバティーニSD(スポーツ・ディレクター)は、冬に大鉈を振るった。
前半戦19試合を終えたところで監督ガルシアを切り、元監督スパレッティにチームの建て直しを託した。
宙ぶらりんの5位にいたチームを引き継いだスパレッティは、瞬く間に選手たちを掌握。22節から怒涛の8連勝を挙げて、ローマを一気にCL出場圏内の3位に押し上げた。残り試合は少ないが、2位ナポリを猛追する。
王者ユーベに匹敵する驚異的な勝ち点ペースにご満悦の会長は、快哉を叫んだ。
「こんなことなら、シーズンの最初からスパレッティでいけばよかった!」
ローマ特有の“王様”トッティという問題。
スパレッティは、なぜローマを建て直すことができたのか。
やり方は明確だった。選手を甘やかさず、向上のヒントを与えながら、一線を引いて接した。
言葉にすると簡単だが、独特な価値観が支配するローマにあっては実践するのは難しい。
ローマに染み付いている緩いムードは、選手やスタッフに心地よい親密感をもたらすが、タイトルを争うチームにあるべき緊張感を欠く。ある種の“ぬるま湯”的空気に染まろうとしない者は、排他の対象だ。昨季、バルセロナで3冠を達成した若き名将ルイス・エンリケですら、4年前にローマで挫折した。
かつての指揮経験から、スパレッティはクラブの体質や選手たちを取り巻く風土を熟知していた。そして、そのジレンマを生んできた元凶とでもいうべき“王様”トッティをついに切った。
クラブ側も処遇に困るほど存在が大きくなりすぎたトッティを他の選手と同列扱いしただけで、指揮官は内外から猛批判を浴びた。だが、リーグ屈指の勝ち点ペースを叩き出す指揮官は、もはやパロッタ会長を味方につけた。チームの主導権はスパレッティのものだ。もう時計の針は戻らない。