One story of the fieldBACK NUMBER
金本新監督が惚れ込んだ“義”の男。
片岡篤史コーチの「厳しさと懐」。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/01/24 10:40
秋季キャンプの初日、伊藤隼太に打撃指導する片岡コーチ。猛虎復活のキーマンとなれるか。
「俺が俺でなくなってしまうんや」
「なぜ、片岡さんが辞めないといけないんですか」
筆者もそうだった。辞任の情報を聞いた日の夜、電話を鳴らした。
まだ新監督の体制1年目。監督だって辞めない。来年、やり返せばいいのでは――。
「ありがとうな。でも、責任はあるよ。それにな。これで続けたら俺が俺でなくなってしまうんや」
金になる世界だ。現職にしがみつく人間だっている――。そんな記者の胸中も見通して、こう続けた。
「しがみつくのは悪いことじゃない。みんな生活があるんだから。それを批判したらあかんで」
あるべき姿を常に貫く「義」の人だ。
厳しい人だった。挨拶の仕方、質問の仕方から酒の飲み方、カラオケの選曲まで……。ただ、最も厳しいのは自分に対してだった。責めを負う立場にあれば、針のむしろに立ち、すべてが終わった後で身を引く。男としてあるべき姿を常に貫く「義」の人だ。だから何度会っても、背筋が伸びる。それでいて「利」に走る人を許容する懐も持っている。
そんな人に仕事はめぐってくる。その「義」に男が惚れるのだろう。あの2012年、選手として片岡コーチの姿を見ていた金本監督が今度は自らの右腕として呼んだのだ。