マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
親指が捻じ曲がった高橋純平の直球。
「辛抱の夏」を越え、完全復活。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byMasahiko Abe
posted2015/11/10 10:50
髪も伸び、ぐっと大人びた高橋純平。ソフトバンクの長期育成計画でどんな大物に育つだろうか。
何度か日延べを繰り返して、ようやく実現した対峙。
立派な室内練習場。照明もほどよく、よし、これなら見える!
向き合う。
待望の高橋純平である。お互いの都合がなかなか合わず、何度か日延べを繰り返して、ようやく今日、念願の高橋純平と対峙した。
うわっ、純平くんだ……。
きれいに立っている。グラブの中にボールをセットして、そのグラブを腰の位置に置いて、まっすぐにこっちを見つめているその顔が小さい。気分は勝手にアイドルのライブだ。
いかん、呑まれている。このままでは、やられる。
「カモン! ジュンペー!」
絶叫ひとつ、自分で自分の背中をどやしてやった。
立ち投げから始める。
速い。すごく速い。こんなの立ち投げじゃない。立ち投げなんて、もうちょっと加減するもんだろ。
3球、4球。
あっという間に来る。ミット、薄くなったのかな……。
いつもなら、牛革が小気味よく快速球の当たりを吸収してくれる。
なのに、今日は違う。手のひらで直に受けている感覚。痛い……じゃない、痛てえボールなんだ。
立ち投げ5球で、すぐに座る。あいつ、もう出来ている。
「速っ……」「こんなの久しぶりに見たな」
久しぶりのブルペンらしい。今日はストレートとカーブでいくという。
右打者の外のストレートから。スッと左ひざが上がる。背中がまっすぐだ。
フォームが見えたのはそこまで。左足を下ろしたら、もうボールが飛んできた。
構えたミットだ。なのに、音がしょぼい。ミットが遅れる。
「速っ……」
後ろで誰かが言った。
「こんなの久しぶりに見たな」
誰かが返す。後ろがざわついているようだ。
確かに、人を集められるボールだね、こいつは。