右打者にはボールにしか見えない角度の直球。

　ドーンと来る。

　いや、ドカーンと来た。

　普通の野球のボールがソフトボールみたいに大きく見える。

　こっちも“芯”では受けている。芯で受けているのに、ミットが押し込まれる。

　ちょっとでもズレると、ミットの中の親指がねじくれるボールだ。

　右打者の外に角度がある。けっこうインステップして体を左側にズラしてから、カッと腰を切ってくる。

　時計の文字盤でいえば、10時と11時の間ぐらい。それぐらいの角度から投げ下ろしてくるオーバーハンドだから、タテと斜めが合成された角度。

　こういうボールで外を突かれると、右打者にはボールにしか見えない困った角度になる。

ピッチャーは、キャッチャーよりえらい。

　右打者の“外”に3つ続いて、

「いいコントロールしてんじゃんよー！」

と、乗せると、4つ目が真ん中に入る。

「ちょっとほめると、すぐこうだわ！」

　ハンサムフェースが向こうでムッとしている。

「4つぐらい続けろ、このやろー！」

　怒らせたあとが怖い。

　ん……インステップが小さい。ウンリャ！　とか、聞こえた。

　来た。捕らえた！

　親指がメリッといって、音がしょぼい。はずれてる。負けてる。

　技術じゃない。気持ちだ。気持ちで負けてる。

　このやろー！　の気持ちで、投げてるほうが勝ってる。

「あー！　キャッチングミス！　ごめん！　もうしわけない！」

　こういう時は素直にあやまる。ピッチャーとキャッチャー、えらいのはピッチャーのほうだ。

【次ページ】　いいぞ。バカになれるヤツだ。