渾身の腕の振りで、大学野球の強豪を圧倒。

　さらに、この春。

　昨春と同じリーグ戦4勝0敗で、またしても東北福祉大を破った熊原健人。防御率0.63というのは42イニング投げて失点わずかに3。ほぼ完璧な内容での「2年連続の全国」をひっ下げて、東京ドームのマウンドにやってきたこの時のピッチングが圧巻だった。

　相手だって、大学選手権通算16回出場の強豪・九州産業大。そんな常連を向こうにまわして9回を自責点1点に抑えると、やはりコンスタントに145キロ前後をマークした速球とフォークで奪った三振は13。そして、それ以上の“勲章”だったのが、全国クラスの強豪相手での無四球完投だった。

　渾身の腕の振りはぜんぜん変わっていない。

　いや、むしろワンランク豪快になってはいないか。

腕を振った瞬間、捕手のミットから轟音。

　朝8時。

　グラウンドではすでに紅白戦が始まっている。紅組先発の熊原健人。試合開始の最初の1球、捕手のサインに首を振って、右打者の外にストレートをきめる。

　最初から140キロ後半は間違いなし。

　熊原投手が腕を振ったと同時に、捕手のミットが轟音をたてる。“間”がない。

　速い……というより、速さがよくわからない。間のボールが見えないからだ。

　馬力が違う。すごい下半身だ。

　ギリギリの下半身。これ以上大きくなったら、むしろ動きづらいボリュームのはず。それを見れば、剛速球のパワーは想像がつく。今日は気をつけないと……。

　背中がゾワゾワっとする。“危険”な予感だ。

　グラウンド横のブルペン。

　後ろが木々の繁みなので、グラデーションになってちょっと見にくいが、まあ……まあまあだろう。

　立ち投げは10球ほど。紅白戦で3イニングがっちり投げた後だから、肩はできている。腰を下ろして初球から、もう“MAX”だ。

【次ページ】　右打者にはボールにしか見えない角度の直球。