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とことん熱かったG1クライマックス。
新時代の新日本プロレスを徹底検証!
text by
プチ鹿島Petit Kashima
photograph byEssei Hara
posted2015/08/18 11:15
G1優勝決定戦史上で最長の32分15秒の激闘を制した王者・棚橋。「8年ぶりに夏を極めました。シリーズが長く、勝負がきつかったので充実感が凄い!」とコメント。
G1クライマックスとは、ポスト猪木時代の象徴。
G1クライマックスとは「メインイベントからアントニオ猪木がいなくなってから」の新日本プロレスの歴史とほぼ一致する。
ひとつのキーワードを言うなら「複数スター制」だろう。
カリスマなきあとの組織が合議制に変わる場合があるように、新日の場合は突出したカリスマ(猪木)の穴を優秀なスターレスラーたちが埋めた。メインを張れるスターが複数いると、興行も総花的で豪華なカードが組める。それまでのストーリーがわからなくても「点」で楽しめる。90年代のドーム大会はその象徴である。
そして、複数スター制の最大の魅力がG1クライマックスなのである。夏がくればすべての選手が「平等」になるのだ。G1をむかえると観客の心がリセットされる。誰にでも優勝のチャンスがある。G1クライマックスは複数スター制の時代が生んだ大ヒット企画なのだと思う。
本間朋晃が体現する新日の「ハッピー感」とは?
G1を通してみえてくる新日本のキーワード。
次は「ハッピー感」だ。
昭和の猪木は「最強」を追求したが、猪木以後の新日本は「最高」も追求する。
たとえば昔のリーグ戦には「白星配給係」と呼ばれた選手がいた。せっかく会場に行っても、その手の選手の公式戦はハズレくじを引いた思いをした。しかし、最強だけでなく最高をも求める今はどうか。
現在人気爆発中のレスラーに本間朋晃がいる。昨年初めてG1に参戦して全敗に終わったが、その一途なファイトで人気は上昇。最近ではハスキーボイスが注目されてバラエティ番組でも人気となり、よけいに火が付いた。
そんな本間のことを白星配給係と呼ぶ人はいない。本間の公式戦をハズレくじと感じる人はいない。むしろ「念願の一勝を今日みることができるかも」という期待感が今年のG1のひとつの見どころではなかったか。
8月12日後楽園ホール。その日はついにやってきた。
本間朋晃対石井智宏はメインイベントだった。初勝利をあげた本間に会場は大歓喜。どの顔も笑顔がこぼれていた。文字通り「最高」の現場。公式戦を1勝8敗で終えた本間だが、「最高」と「ハッピー感」を観客に与えた。
ここで考えたいのだ。本来なら格差が如実に出るリーグ戦だが、今の新日本では各選手の見方を観客が理解して応援する。意気に感じたレスラーはベストを尽くし、カードの格に関係なく激闘が生まれる。私はあえて大げさに言うのだけれど、この格差なきハッピー感は新日本にあって今の日本に足りないものなのかもしれない。会場にゆくと多幸感を満喫できる。