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FC東京-武藤嘉紀=シュート欠乏症!?
もう、困ったときの“よっち”はいない。
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/07/13 11:20
ギリシャや韓国でもプレー経験があるオーストラリア代表FWのネイサン・バーンズ。武藤嘉紀の大きすぎる穴を埋める存在になることができるのか。
FC東京の前進守備が抱える“構造的”な欠陥。
その武藤は、もういない。自陣深くでボールを奪っても、前に運ぶのは難しい。ならば、もっと高い位置でボールを奪ってしまおう。これが、川崎F戦でイタリア人指揮官が採用した作戦だった。
「前半は狙いどおりの守備ができた。高い位置でボールを奪えて、そこで点が取れれば完璧なゲームだった。逆に後半は運動量が落ちて、相手に余裕を与えてしまった」
森重が言うように、序盤から2トップの前田と石川直宏が相手センターバックを激しく追い回し、トップ下の東慶悟は川崎Fのボランチを厳しく監視する。確かに前半は、この“前進守備”が機能した場面もあった。前述の前田のシュートも、高い位置での守備から生まれたものだ。
ただし、FC東京が前進守備を続けるには、構造的な欠陥がある。彼らの基本システムは、4-3-1-2。最終ラインの前に、米本拓司、梶山陽平、羽生直剛の3人が並ぶ形だ。このシステムの場合、サイドに張り出すMFがいないため、高い位置からプレスをかけようにも、相手サイドバックがフリーになりやすい。この試合でも、前田と石川が相手センターバックを追い回しても、サイドバックの武岡優斗と小宮山尊信にボールを逃がされる場面が目に付いた。
それでも前半は、チーム全体がボールサイドに寄ることで武岡には米本が、小宮山には羽生がアプローチできていた。しかし、効果的にサイドチェンジを使われた後半は、武岡と小宮山への寄せが遅れた。実際、52分の失点は武岡が起点となってパスをつながれ、小宮山のクロスをエウシーニョに決められた。
低い位置で奪っても、推進力のある武藤はもういない。
もしもFC東京がこの先も高い位置でのボール奪取を狙うのならば、サイドハーフを置くシステム(4-4-2や4-2-3-1)への変更、または米本と羽生が後方のマークを捨ててでも相手サイドバックに寄せる覚悟とスタミナが必要になる。
とはいえ、Jリーグの中でも最もポゼッションのうまい川崎Fに対して、90分間ハイプレスを続けるのは難しい。前線の選手が追いかけても、巧みなパス回しで逃げられて体力を消耗するからだ。先制点を許してからは、自陣に押し込まれる時間が続いた。低い位置でボールを奪っても、武藤のような推進力のある選手はいないから、なかなか押し返すことができずシュートに持ち込めない。