プレミアリーグの時間BACK NUMBER
アーセナルに久々の「守護神」降臨!
チェフの加入とリーグ優勝の可能性。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2015/07/05 10:40
UEFA最優秀GKにも輝いたことがあるペトル・チェフの加入はアーセナルにとってとてつもなく大きい。ベンゲルはようやく守護神に悩む日々から解放されたといえるだろう。
背後にチェフがいるからこそ、4バックの安定感が増す。
チェルシー守護神としてのチェフは、移籍1年目にプレミアリーグ史上最多となる21試合で零封を実現した'04-'05シーズンを皮切りに、要所をファインセーブで締めながら、国内外で主要タイトルを総なめにしたチームを支えた。最大の栄誉と言える'12年のCL優勝時にも、決勝戦延長でチェフがアリエン・ロッベンのPKを防いでいたからこそ、PK戦に持ち込んでバイエルン・ミュンヘンを下すことができた。
チェルシーは最終ラインも強力だが、背後にチェフが控えているという安心感が4バックの安定感を増していたとも言える。ピッチに足を取られてシュートへの反応が遅れた2年前のウェストブロムウィッチ戦(2-2)など、滅多にないミスを犯した場合には、一部のファンやメディアで「'06年の頭骨陥没骨折前がピークだった」と言われたが、これはハイレベルのパフォーマンスが当たり前だったが故の厳しすぎる指摘。
チェフは、保護用のヘッドギア着用を余儀なくされた後も無失点試合を重ねてきた。昨季までのプレミア通算333試合のうち162試合が無失点。ほぼ2試合に1度のハイペースで敵をシャットアウトしながら、デイビッド・ジェームズが572試合で達成した無失点試合数のプレミア最多記録(170)の更新に迫っているのだ。
そして、持前のセービング能力とゴールマウス掌握力は30代の今も衰えていない。OPTA社のデータによれば、過去3シーズンのセーブ率78%はプレミアGKの中で最高。昨季のチェルシーでティボウ・クルトワにポジションを奪われたことは事実だが、守護神交替の決め手は両者間に存在する10歳の年齢差でしかなかったことをモウリーニョ自身が認めている。
テリー「15ポイントの価値があるGKだ」
出番が訪れた昨季リーグ戦7試合では、90%近いセーブ率で4試合が無失点。今年2月のエバートン戦(1-0)で、ゴール前3、4メートルの距離でクロスに合わせたロメル・ルカクのシュートを咄嗟に伸ばした足で弾き返したセーブが健在ぶりの好例だ。
チェフのクオリティを語る上では、昨年2月のニューカッスル戦(3-0)も忘れ難い。まだ1点差の時点で1対1の危機を防ぎ、逆にカウンターから追加点が生まれた場面だ。リードを広げたチェルシーのベンチ前には、得点者のエデン・アザールらが喜ぶ相手ゴール前ではなく、自軍ゴール前のGKに目をやりながら頷くモウリーニョの姿があった。
今回のアーセナル移籍を前に、テリーが「チームにとって15ポイント追加の価値があるGKだ」とチェフを讃えていたのも、決して長年のチームメイトを持ち上げたわけではないだろう。
テリーの計算通りならば、昨季プレミアで勝ち点75ポイントの3位につけていたアーセナルは、87ポイントで王者となったチェルシーを抜いて優勝を狙えることになる。もちろん、実際はそれほど単純ではない。チェルシーをはじめとする他の上位勢も更なる補強を図っており、アーセナル自体も、フランシス・コクランの台頭だけでは心細いボランチの強化が残されている。アレクシス・サンチェスへの依存度が高いFW陣にも新戦力が欲しい。