プレミアリーグの時間BACK NUMBER
アーセナルに久々の「守護神」降臨!
チェフの加入とリーグ優勝の可能性。
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2015/07/05 10:40
UEFA最優秀GKにも輝いたことがあるペトル・チェフの加入はアーセナルにとってとてつもなく大きい。ベンゲルはようやく守護神に悩む日々から解放されたといえるだろう。
自分の定位置を奪ったクルトワを祝う「できた」男。
しかしながら、懸案だった「守護神不在」の解決を意味するチェフの加入は、チームに'04年以来となる「リーグ優勝」を意識させるだけのインパクトを持つ。チェルシーで13度の主要タイトル獲得歴を誇る新GKは、実際に優勝を経験することによって初めて体得できる「勝者のメンタリティ」をもたらすことになるからだ。
アーセナルは昨季FAカップ連覇を成し遂げてはいるものの、プレミア優勝経験を持つ一軍メンバーは、まだ24歳のダニー・ウェルベックだけ。そのウェルベックも、マンチェスター・ユナイテッドでの控え選手としての経験でしかない。新たにチーム最後尾に控えるチェフの存在は、主力に若手が多いチームにとっては新たな自信の源だとも言える。
さらに控えGKは直にノウハウを吸収することも可能だ。共に20代半ばのシュチェスニとオスピナだが、チェフの「見習い役」は昨夏に買い入れられたオスピナではなく、ユース時代の移籍でベンゲルの思い入れが強いシュチェスニになると思われる。無謀な飛び出しなどピッチ上での判断と、喫煙などピッチ外での態度が問題視されて昨季途中にベンチ降格となったが、当人もアーセナルへの「愛情」とポジション奪回への「決意」を公言している。
勝気で「生意気」とも言われてきたシュチェスニだが、成長を期して学ぶ姿勢を見せればチェフは助言を惜しまないはずだ。チェルシーで10年来の定位置を失った昨季でさえ、クルトワが活躍した試合後にはベンチを出て祝福することを忘れず、後輩が怪我をすれば携帯メールで容体を気遣い、コンビでのウォームアップ中に日差しを確認した上で、前半にどちらのハーフを選べばクルトワが守りやすいかをキャプテンに進言していたような「できた」先輩なのだ。
アーセナルでは、かつてレーマンの控えだったルーカス・ファビアンスキ(現スウォンジー)が「無視され続けた」と不満を洩らしていたが、チェフに限っては第2GKとの確執は心配無用だろう。
契約期間は4年、リーグ無冠時代に終止符を打てるか。
超一流GKの価値を「15ポイント相当」と表現した人物には、マンU監督時代のサー・アレックス・ファーガソンもいる。ファーガソンは、'99年にピーター・シュマイケルがチームを去った後、ベンゲルと同じように6年間で大量10名のGKを試すはめになった指揮官でもある。マンUの「守護神不在」に終止符を打ったのは、'05年に獲得したエドウィン・ファンデルサール。今夏のチェフよりも1つ年上の34歳での加入だったが、在籍6年間でリーグ優勝4回とCL優勝を可能にする守護神と化した。
アーセナルに迎えられたチェフの契約期間は4年。満了までには「ベンゲル体制下の守護神=チェフ」という新たなイメージが定着し、10年を超えているリーグ無冠時代にも終止符が打たれているのではないだろうか?