甲子園で観るたびに、きれいなスイングに見とれた。

　思い出した情景がある。

　智弁和歌山高1年の夏を皮切りに、合計4回の甲子園出場を果たした西川遥輝だったが、彼の“甲子園”はいつも故障明けだった。

　ある時は右手の甲の疲労骨折、またある時は左手の甲に死球をくらって骨折。肩を痛めていた時もあった。

　甲子園でしか彼の実戦を見られなかった私は、「西川遥輝」という逸材の本当のすごさを見たことはなかった。それでも、彼の実戦を見るたびにいつも同じことに心を震わされていた。

　きれいなスイングをするヤツだなぁ……。

　そして、ウェイティング・サークルに出てきた瞬間から、絶対に「見られている意識」を持っていた。

　自分を見ている人のために、バットを振る。

　まっすぐに立てた背すじ、バットの先端を天に向けた構え、右腕でバットを引き出して左腕で先端に大きな弧を描かせながら、全身の回転で振り抜く。

　あれだけ振ってみせるのは間違いなく痛いはずだが、彼は“見せること”に手加減は加えなかった。

母「あの子、形にこだわるっていうんかな」

「あの子、形にこだわるっていうんかな、そういう美学みたいなもの、持ってると思います」

　聞こえてきたのは、西川遥輝の母・恵美子さんの言葉だ。

　3年の夏が間近にせまる頃、ある雑誌の取材で息子・遥輝くんを語っていただく機会があった。

　子供の頃の少年野球。誰もがバランスを崩して、中にはひっくり返りながらスイングする子もいたぬかるみのグラウンドで、当時小学生だった遥輝少年だけが、いつもと変わらぬ華麗なフルスイングで右中間に三塁打を放ったそうだ。

　鉄棒の逆上がりは、3つ上のお姉さんが懸命に練習しているのを横目で見ていて、2歳の時にやってのけた。

　一輪車も竹馬も、年上の子が遊んでいるのを見よう見まねでいつの間にか覚えてしまう。そんな飛び抜けた運動神経は、この頃から存分に発揮されていた。

【次ページ】　最初の1メートルが速い、“天性”の盗塁。