最初の1メートルが速い、“天性”の盗塁。

　西川について忘れられない場面がある。やはり、高校野球の甲子園。

　いつもどこかが痛い状態で出てきて、なのにいつも人より余計にヒットを打って、簡単に出塁すると、そこからまた、いとも簡単に次の塁を奪っていた。

　おおげさにリードをとって、投手を威嚇するようなことはしない。

　今度は走りそうもないな……。

　見ているこっちをそう油断させておいて、そういう時ほど、スルッとスタートをきってみせた。

　横の1メートル。盗塁の“キモ”はここだ。

　スタートの1メートル。つまり最初の1歩、2歩。そこの速さが結果を決める。彼はそこのスピードがあった。

　今いたのに、パッと消える。

　そんな印象のスチールをきめてみせた。

　練習して覚えた動きじゃない。もともとできるか、できないか。“天性”というやつだ。

感性で自分を支えている選手は、乗せたら怖い。

「こんなこと言うたら、絶対、遥輝に怒られると思うけど……」

　母・恵美子さんの声が聞こえてくる。

「あの子が真剣に野球と向き合ったのって、高校になってからやったと思いますよ。それも、ほんとに自分から練習するようになったのは、岡田くん（俊哉・現中日投手）が抜けたあとの、2年生の秋の新チームから。学校から帰ってきてご飯食べて、ちょっとバット振ってくるわ……みたいな感じで。そういう時も、ガラスに映る自分の姿、すごく気にしてね。なにしてんの？　って訊くと、イメージ作りや……って」

　感性で自分を支えている選手は、乗せたら怖い。

　今季の西川遥輝、1試合3安打の「猛打賞」をおよそ2月ですでに7回。4安打以上の固め打ちは3回。（5月28日現在）

　ベストなイメージが見えている間、感じられる間は、ベストのパフォーマンスが続くのだ。

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