マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
母が語る日本ハム・西川遥輝の天才。
「自分のこと一番うまいと思ってる」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/06/01 10:30
甲子園の常連であり、春夏ともに3度の優勝を誇る智弁和歌山高校だが、意外にもプロで超一流と言われる成績を残した選手は出ていない。西川遥輝はその不吉なジンクスを破れるか。
同期の谷口とトスバッティングしていた自主トレ。
今、思い出した場面がある。
西川遥輝が日本ハムにドラフト2位で入団して、最初の新人合同自主トレーニング。
キャンプ間近、1月なかばの寒い日だった。
ひと通りのメニューが終わって選手たちが引き上げていく中、2人のスリムなトレーニングウエア姿が連れ立って室内練習場に入っていくのが目に入った。西川、そしてもう一人はやはりルーキーの谷口雄也(愛工大名電・外野手)だ。
やがて、ボールをたたく乾いた打球音が聞こえてきた。
そーっと中に入って、邪魔にならないように柱の陰から見つめる。
代わりばんこにトスバッティングだ。
10球打って谷口、10球打って西川。
こう寒くちゃ汗もかかんだろう……。その程度の“クールダウン”みたいなトスバッティング。
10球打って西川、また10球打って今度は谷口。
人の気配がしてふっと横を見ると、いつの間にかファームのコーチが一人、彼らのティーバッティングを見つめている。
気づかない西川、気づかない谷口。
ネットのフレームに当たった打球がコーチのほうに転がって、打っていた谷口のほうが先に気がついた。
母「多分、自分のこといちばんうまいと思ってる」
一気にスイングに熱がこもる谷口。インパクトで「おっ!」と気合いの声が漏れて、ボールを上げる西川に“連続打ち”をリクエスト。一転、インパクトのテンポが速まる。
5つ、6つ、渾身のスイングを続けた谷口の息が荒く、ならば、打席を代わった西川も負けじと猛スイング連発かと思ったら……。
パッコーン、パッコーン。それまでと何も変わることなく、きれいに背中を立てた構えから、右腕でバットをリードして、左腕でバットヘッドをフルに回転させる“遥輝スタイル”でパッコーン、パッコーン。
そういえば、お母さんの恵美子さん、こんなことも言ってたっけ。
「遥輝、たぶん、自分のこといちばんうまいと思ってるのとちがうかな。自分よりうまいヤツなんて、どこにもいてへんって、あの子、きっと本気でそう考えてると思います。そういう子なんですわ」