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香川真司よ、悔しさをぶつけろ!
4年前、大久保嘉人がかけた言葉。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byGetty Images
posted2014/06/22 11:50
20日の練習中、香川真司は時おり物思いにふけっているように見えた。その胸中には何が去来しているのだろうか。
ロッカールームで泣いていた香川。
2010年2月。岡田ジャパンは東アジア選手権の最終戦となる韓国戦を迎えていた。香川は前半途中にケガで退いた大久保に代わって途中出場したものの、田中マルクス闘莉王が退場したこともあってハーフタイムで交代させられてしまった。
治療を終えた大久保がロッカールームに戻ると、後輩は悔し泣きしていたという。短い時間とはいえ、せっかくのチャンスを活かせなかったことがよほど悔しかったのだろう。あのとき、大久保は言っていた。
「試合後、大会のセレモニーがあったんで“それには出るんやぞ”と言いました。そんなことがもし後で問題になって、メンバーに選ばれなかったらアイツにとって損じゃないですか。セレモニーのことに気づいてないぐらい、凄い落ち込み方やったんですよ」
実は、大久保はこのときも一言、香川の心に言葉を届けている。
「泣くな。大丈夫やから」
彼が励まされたのは、想像に難くない。
岡田ジャパンでは、香川にとってこの韓国戦がラストゲームになった。だが、このときの悔しさ、W杯メンバーに残れなかった悔しさが、のちのドルトムントでの輝きをもたらした一つのきっかけになったのではあるまいか。
あのときと同じ、いやあのとき以上の悔しさが、今の香川真司の心のなかに渦巻いていると筆者は勝手に思い込んでいる。また、前線で体を張ってプレーする大久保の姿には、香川に対するメッセージも何だか含まれているような気がしてならない。
奇跡をたぐり寄せるためには“10番”の覚醒が必要。
ザックジャパンは2試合終わって1分け1敗。もはや自力突破の道はなく、まさに崖っぷちの状態で2連勝と波に乗るシード国コロンビアとグループリーグの最終戦を迎える。この苦境の中、チームの10番を託された香川自身が壁をぶち破らなければ、奇跡をたぐり寄せることはできない。
彼はイトゥー入りしてから初戦を迎える前、このように語っていた。
「変な思い入れや変な想像は持たないようにしています。初戦で3点取るとか、そういうことよりも自分が出来ることであったり、自分の持っているものを無心の状態でやることが一番ベストだと思っているし、そういう状況に持っていけるようにしっかりと準備をしていきたい。W杯ということで、いろんな夢であったり、いろんな欲というのもあるとは思うんですけど、それを抑えるというか、コントロールできるかどうかが、ある意味で勝負なのかなと思っています」